第8話

「プギャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」



 俺の顔面パンチで、へんな悲鳴ととも吹っ飛ぶ工場長。

 コンベアの端にしたたかに頭を打ち付け、白目を剥いて倒れてしまった。


 そして今になってようやく、俺は自分のDQNっぷりを自覚する。


 百歩譲って、手を上げたまではよしとしよう。

 しかしミッションの内容は、『工場長を殴れ』だけであり、強度の指定はされていなかった。


 だから、軽く小突くくらいでも良かったはずなのに……。

 つい、積年の恨みを拳に乗せてしまった。


 いくら毎日のように、アザができるくらい蹴られてるからって……。

 今もなお給料をピンハネされてるからって、制服をションベンまみれにされてるからって……。


 ちょっと、やりすぎ……。

 いや、これまでされた仕打ちを勘案すると、やりすぎでもないかもしれない。


 いずれにせよ、ここでのバイトは終わった。

 また、新しいバイトを見つけないと……。


 そう思った直後、俺は駆けつけた警備員に取り押さえられ、それどころではないことを知る。


 そっか、俺もついに、前科持ちか……。

 いまさらながらに事の重大さを噛みしめていると、信じられないことが起こった。


 倒れて泡を吹いていた工場長の身体が、みるみるうちに緑色に変色していって……。

 なんと『ゴブリン』になってしまったんだ……!


 ゴブリンというのは知ってのとおり、ファンタジー系のロールプレイングゲームに出てくる雑魚キャラだ。

 子供のように小さくて、緑色の肌をしていて、尖った牙と耳が特徴。


 徒党を組んで村とかを襲う、邪悪なモンスターなんだ。


 そして現代日本では、何年前かからモンスターが現れるようになった。

 おおっぴらに暴れるヤツもいるけど、ほとんどが工場長みたいに人間に化けて悪さをしている。


 といっても俺自身、人間に化けたモンスターを見るのは初めて。

 新聞やニュースとかでは取り上げられているけど、自分にはどこか異国の出来事のように縁の無い話だと思っていた。


 それから話は意外な方向へと飛ぶ。

 警察庁からやってきたという人が、工場長だったゴブリンに手錠をかけて連行。


 指名手配中の極悪ゴブリンだったということで、俺の暴行は怒られるどころか、逆にほめてもらえた。

 そのうえ、10万円という、賞金まで……!


 人間に化けているモンスター倒すと、報奨金がもらえるという制度は知っていた。

 でもまさか、自分がそんな賞金稼ぎのようなことができるだなんて……。


 今日は朝から、夢を見ているみたいなことの連続だった。


 俺は夕暮れのなか、キツネにつままれたままのような気持ちで自宅へと戻る。



 ……ピロリン!



 ポケットに入れていたスマホが反応したので、夢見心地のまま取り出してみると……。



 『ミッション達成!』

 『チャレンジ達成! 初めてミッションをクリアした』

 『パワーアップガチャチケット 2枚ゲット!』



 そして昼からグレーアウトしていた『飯ガチャ』が復活していた。


 そう言えば、そろそろ晩飯時か。

 歩きながら『飯ガチャ』のスロットをやってみると、



 『和食』『お鍋』『手作り』



 を表すアイコンと文字が並んだ。

 スロットの排出口には、『スーパーレア:スキヤキセット(晩酌つき)』とある。


 おっ、今夜はスキヤキかぁ……!


 なんて思いながら、自室に戻ってみると……。


 アパートの扉を開けた途端、スキヤキのいい香りが漂ってきた。

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