第7話
『人生ガチャ』に現れた、『ミッション』という新たなる項目。
いよいよゲームっぽくなってきたな、と思いつつ、確認してみると……。
『ミッション:工場長を殴れ!』
という文字の上には、今の俺にとって不倶戴天の敵ともいえる、オッサンの顔が……!
俺は工場で、パックの刺身の上にタンポポを乗せるアルバイトをしている。
いわゆる『ライン工』というやつだ。
画面に出ていたのは、俺を毎日のようにいじめる、工場長だったんだ……!
工場長は背が低くてハゲていて、出っ歯で耳がとんがっている。
仕事中、俺のラインにやって来ては、タンポポの位置が悪いだのと、甲高い声で喚き散らすんだ。
まさか、
いやいやいや、いくらなんでもそんなこと、できるわけないだろう!
殴りたいと思ったことは数え切れないほどあるけど、そんなことをしたら、一発でクビだ!
しかしミッション説明画面には、そんな俺を悩ませる、とんでもない一言が書いてあった。
『ミッション中は、無料のガチャが引けません。また時間切れでミッションを失敗すると、このスマホと、それまでに引いたガチャはすべて没収されます』
無料のガチャが、引けない……!?
それは俺にとって、息をするのに金を払えと言われているのも同然だった。
他のゲームアプリで遊べばいいだけのことだが、俺はもう、この『人生ガチャ』にすっかりハマっている。
しかしそれ以上に、俺を追いつめていたのは……。
ガチャの、没収……!
ということは、いまここにいる、スク水JKもいなくなるということ……!?
美人局だとわかっていても、そんな理由でいなくなるのだけは嫌だ!
だって、大魔法使いもかくやという俺の人生に、初めて現れた女の子なんだぞ!
俺の脳裏に、ユズリハとの思い出が走馬灯のように走る。
それは、今日の朝から昼までという、わずかな時間の出来事でしかなかったが……。
オブラートのように薄く、無味無臭だった俺の人生において、もっとも濃密で、味のある出来事の連続だった。
今だからこそ白状しよう。
彼女といっしょに食べたカップ麺は、今まで食べたどんなものよりも、美味しかった……!
俺は決意とともに、スックと立ち上がる。
いまの月給12万の仕事と、JKの嫁……比べるまでもない……!
それに、どうせガチャに捧げた人生だ、ガチャで棒に振るのも悪くないっ……!
「ユズリハ! 俺は今から工場長を、殴りに行ってくるっ!」
俺の大声にびっくりして、ユズリハは細い肩をピクンと震わせる。
「はっ、はひっ! ……あっ! そ、それでしたら、わたくしもお供させてくださいっ……!」
「いいけど、その格好で付いてくるの?」
「えっ? あっ!? す、すみません……! や、やっぱり、お留守番をさせていただきます……」
俺が突っ込むと、彼女はシオシオとしおれていた。
俺は部屋を飛び出すと、猛ダッシュで近所にある工場に向かう。
今日は俺は非番だが、平日なので工場長は工場にいるはずだ。
案の定、ヤツはコンベア走る場内にいた。
俺の次に気に入らないアルバイトを、蹴り飛ばして怒鳴り散らしている。
俺は、ツカツカとヤツの元に歩いてく。
「工場長、いままでお世話になりましたっ!」
そして、振り向いた拍子のヤツの顔面に、
……ズドォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーンッ!!
ワンパンを、ブチ込んだっ……!!
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