人生ガチャ

佐藤謙羊

第1話

 俺はスマホゲーが大好きだ。

 いや、ガチャが大好きといったほうがいいだろうか。


 どのくらい好きかというと、給料が振り込まれたその日に、ガチャに全額つぎ込むくらい。


 そして今日は久々の休み、朝から晩までいろんなゲームアプリを渡り歩き、ガチャを引き倒そうとしていたのだが……。

 スマホがブッ壊れた。


 ゴミ溜めのようなワンルームのアパートの中で、ひとり失意の俺。

 するとふと、玄関扉のポストに何かが投げ込まれた。


 見てみると大きな封筒で、中には見たこともないデザインの新品のスマホが入っていた。

 同封されていた手紙によると、新製品のモニターに選ばれたらしい。


 応募した記憶はないが、なんにしても渡りに船だ。

 俺は喜び勇んでスマホを起動し、さっそくゲームアプリをインストールしようとする。


 しかしふと、ホーム画面に『人生ガチャ』というアイコンがあるのを見つけた。

 ありとあらゆるゲームアプリを遊んでいる俺だったが、こんなゲームは初めてみた。


 なんにせよ、初めてプレイするアプリというのは気前よく無料ガチャを引かせてくれるものが多い。

 さっそく起動してみると、プレイヤーネーム入力画面になった。


 俺はゲームで付ける名前は統一している。

 『俺』と。


 名前入力をすませると、今度はシンプルなボタンがひとつだけ現れた。



 『嫁ガチャ』



 よめガチャ……?


 ボタンの下にはレアリティの排出率が書かれている。

 最高は、


 エターナルフォースレジェンドレア


 で、排出率が 0.0001% だった。


 最高レアとはいえ、これほどまでに渋いのは珍しい。

 まるでNASAの安全基準における、不具合発生率レベルだな。


 まあいい。俺は引きには自信がある。

 どのくらい自信があるかというと、最高レアを無課金で一発で引き当てるくらい。


 たまにガチャの様子を動画配信することがあるのだが、ネット界隈では『ムカキン』と呼ばれているくらいだ。


 俺はさっそくその『嫁ガチャ』を引いてみることにした。


 ボタンを押すと、画面はボロい建物の外観に変わる。

 その建物は、俺の住んでいるアパートにソックリ……っていうかそのままだった。


 画面は、誰かの目線の高さのようで、ドラムロールとともに、ゆっくりとアパートに近づいてくる。

 そしてその人物は、ゲーム画面のなかで、俺の部屋にソックリな玄関扉の前に立った。


 もしかして、いま部屋の外にいるのか……!?


 と思った直後、


 コンコン。


 と控えめなノックが、俺の現実リアルの部屋のなかに響き渡った。


 まさか……!?


 半信半疑で、玄関扉を開けてみると、そこには……。


 千年にひとり……いや、一万年にひとり……。

 いやいや、一億年にひとりかと思われるほど、とんでもない美少女が立っていたんだ……!


 「ハアッ!?」と息を呑む俺。そしてなぜか、彼女のほうも驚いていた。

 大きな目をまん丸と見開き、上品な仕草で口を押えている。


 俺が「な、何か……?」と声をかけると、彼女はピシッと姿勢を出す。

 そして緊張した面持ちで、震える声を絞り出していた。



「あっ……あのあの、あのっ……。あの、初めまして……わっ、わたしが、えたっ、えたぁなる、ふぉ、ふぉぉす、れじぇんど、れっ、れあの……。おっ、お嫁さんです……!」



 少女は本当におあがりさんだったのか、めちゃくちゃカミまくっていた。

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