第30話 野宿

 夜道をとぼとぼと歩く4人。

 せっかく泊まれると思ったのに、追い出されたのだ。


 あたりは真っ暗である。

 日本では、これほどの闇夜になることは経験したことがなかった。

 暗闇の中、不安で不安でしょうがない。

 そして・・・



 少女の恐怖の眼差し。吉岡はその眼差しが頭から離れなかった。

 なぜ自分がそこまで恐れられなければならないのか。

 かつて経験したことがない視線だった。


 この異世界に来て、最初はワクワクしていた。

 異世界で冒険するとか、ダンジョンを攻略するとか。


 でも、現実は厳しかった。


 冒険者もなければダンジョンもない。

 一般人からは恐れられる。

 思っていた異世界と違う・・・


 吉岡は、日本に帰りたくなった。


「とにかく、どこかで野宿しましょう。水があるので昼間の滝のあたりに行くのがいいと思うわ」

 藤島さんが言う。

 彼女は、この事態でも泣いたり怯えたりしない。強い女性だ。


「わたシも賛成デス。あの滝のアタリがいいと思いマス」

 エリザベスさんも、全く動じていない。


「あんなところに行っても屋根もないだろ。雨降ってきたらどうするんだよ」

 田中が文句を言う。

 と言っても、代案があるわけでもない。


 とぼとぼと滝のほうに歩いていくしかない。




 川についたが、星明りの中とはいえ、あたりは真っ暗である。

「この先どうするんだよ、こんなところで寝るのか?」

「そうだけど?」

「・・・・・・マジか・・」


 地面に寝るしか方法はない。

 すると、エリザベスさんが見当たらない。


「エリザベスさん?」

「ハイ、近くにいまス」


 暗闇の中から声がする。

 何か、ガサガサと音がする。


「何をしてるんですか?」

「落ちバや枯れクサを探してマス」


 すると藤島さんも見当たらない。

 向こうの方から、バキ!と言う音が聞こえた。


 そして、藤島さんとエリザベスさんが何かを話している。


 ガキン・・・ガキン・・・・

 石をぶつける音がし始めた。



 すると、闇夜に小さな赤い光がともった。

 それは、急に炎となりパチパチと燃え上がった。


「早く、木を・・・」

「これデいいでショウか」


 だんだんと大きくなる炎。

 それは焚火となった。


「あなたたち。その辺から気を探してきて!」

「は・・はい!」


 いったい、どうやって火を起こしたんだろう?

 火打石?


 藤島さんはどうして、そんなことができるんだろうか?


----


 ようやく、焚火が安定して燃え始めた。

 僕と田中が探してきた木は湿っているものも多かったが、焚火の近くに置いて乾かしている。


「藤島さん、すごいですね。なんでそんなことできるんですか?」

「アウトドアが趣味なのよ」

「ワタシもイエでは焚火をしてマシた」


 本当に頼もしい。闇の中に明かりがあるだけで安心できる。


 だんだんと眠くなってきた。


「いいわよ、火を見ておくから寝ておきなさい」

 藤島さんが言う。


 石がゴロゴロしている地面だけど。

 ちょっと寒い屋外だけど。


 吉岡と田中は横になり、眠りについた。

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