第9話 火薬と便所
「課題は、火薬の材料だ!」
田中が全員の顔を見回して、言った。
ここに黒板かホワイトボードがあったら、大きな字で書くことだろう。
(残念ながら、異世界にそんなものはないが)
それに対する、他の人物の表情は様々だ。
真剣な顔の吉岡。
あきれ顔の藤島。
にっこりと微笑みを浮かべているエリザベス。
「硫黄は火山があればとってくればいい。木炭もきっとあるだろう。一番の課題は硝石にあると考えている」
さも重大そうに、きっぱりと宣言する田中。
うんうんと、うなづく吉岡。
「そこで、俺は考えた!チッソ系肥料から合成して硝石を作ればいいのではないかと!」
「なるほど!」
吉岡が感心した。
するとエリザベスは、コテンと首をかしげた。
「チッソけいひりょうデスか・・・??」
藤島があきれて言った。
「この異世界にそんな化学肥料があるわけないでしょ!」
「「あっ」」
唖然とする田中と吉岡。
それから、2時間後・・・
「どうする・・どうする・・」
イライラとした顔でうろうろと、行ったり来たりしている田中。
机に突っ伏している吉岡。
藤島とエリザベスはソファで、優雅にお茶を飲んでいた。
(ただし、とてもまずいお茶)
やがて、田中が頭を掻きむしって叫んだ。
「どうしたらいいんだ~!!」
すると、藤島がため息をついた。
そして、呟くように言う。
「私はやらないわよ・・・」
「「??」」
そっぽを向いて、話す藤島。
「世界文化遺産に登録された五箇山では、江戸時代に火薬の原料を作っていたそうよ。
その昔、トイレの床下の土を集めて灰汁と煮ることで硝酸カリウムを作っていたそうよ・・・」
「え???」
「尿素をバクテリアが分解すること硝酸ができるらしいわ」
「スゴイです。藤島サン。お詳しいんデスね」
「ちょっと、歴史とかに興味があった時期があったのよ」
「「それだ!!」」
田中と吉岡が、嬉しそうに言った。
「もう一度言うけど、私は絶対にやらないからね!」
聞いているのかわからないが、田中は走って部屋を出て行った。
吉岡も、慌ててついて言った。
藤島はため息をついて言った。
「この世界にも、そんなバクテリアがいれば・・だけどね・・・」
その後が大変だった。
この国のトイレは日本とは異なり、容器に汚物を集める。
ただし、その汚物をまとめて穴を掘って捨てる小屋があった。
その小屋の土を、田中と吉岡が折り返して集める。
侍女や兵士たちに白い目で見られながら、裏庭でそれらを鍋で煮始めた。
煮詰めること3日。
その間、物凄い悪臭が漂った。
何度も、ヒッチ隊長に文句を言われても続ける2人。
やがて・・・
「おお・・これがそうか・・・」
鍋の中に、白い結晶状の物が残った。
これこそが・・・火薬の材料になるに違いない。
田中と吉岡は体からものすごい悪臭をさせながら、ハイタッチをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます