異世界に召喚されたら、故郷でした。日本に帰るために頑張ります。
三枝 優
プロローグ ここは異世界だけど異世界じゃない
よく晴れた日だった。
大学の所有する農地での実習。
今日の作業は、ブドウ畑で誘引と草刈り。
日差しが強く汗ばんでくる。
ツナギに麦わら帽子姿の学生が、それぞれ作業している。
「キャア!なにこれ!」
女子学生の藤島静香が悲鳴を上げた。
近くにいた、吉岡忠人と田中秀人が振り向く。
藤島静香の足元。2メートルくらいのサークル状に魔法陣が赤く光っている。
駆け寄る吉岡と田中。
藤島を抱えるように魔法陣から出そうとするが、魔法陣も一緒に移動する。
魔法陣の光は次第に強くなってきた。
「な・・・なんなんだ!?」
叫ぶ吉岡。
「ダイジョウブデスカ!?」
離れたところから、留学生のエリザベスが駆け寄ってくる。
そして、エリザベスが魔法陣に入ったところで・・・
魔法陣が白く輝き、4人の姿が消えた。
後には、5月の強い日差しの中ブドウ畑に風が吹き抜けるばかり。
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「私の魔法は世界一~~~~!!!!!」
響き渡る、大きな声。
吉岡忠人は気が付くとだたっぴろい部屋に倒れていた。
見ると、何やら紫色のマントを羽織った痩せた男が倒れていくところ。
その男を慌てて抱え上げようとするマント姿の男たち。
たしか、さっきまでは大学の農業実習で畑作業をしていたはずなのだが・・
身を起こすと、他にも同じように倒れている仲間がいた。
田中、藤島。そして海外からの留学生のエリザベス。
「おい、みんな大丈夫か!?」
「・・うう・・何が起こったんだ。」
「急に光に包まれたと思たんだけど・・・一体ここはどこなの?」
「・・・・ロス」
「え?」
隣にいたエリザベスの声に吉岡は聞き返した。
たぶん、母国語で何か言ったのであろう。
エリザベスは確か東欧の国から留学してきた。
すると、突然”バアン!”と扉が開き、何人かの男たちが入ってきた。
数人の西洋の鎧・甲冑をつけた男たち。
すべて西洋人のような顔。背が高く、体がでかい。
「ようこそ、諸君。我がカルマン帝国にようこそ。」
言葉はなぜか通じるらしい。
だが、よく見ると、声と口の動きがあっていない。
「カルマン帝国?」
「そうだ、偉大なるカルマン帝国は諸君を勇者として召喚させていただいた。
諸君にとって、そうだな・・異世界といった方がわかりやすいかも知らんな。」
「異世界!?」
「・・うそだろ・・・異世界召喚かよ・・」
思わずみんな、お互いの顔を見合わせる。なんとなく、田中は嬉しそうだ。
普段からおしとやかで大学のアイドルであるエリザベスは、困惑した顔で聞いてくる。
「エ・・と、イセカイてなんでショウカ・・?」
「多分・・地球じゃない別の世界ってことよ。信じられないけど。」
エリザベスに説明する藤島。
動揺する4人に、その男はにやりと笑って言った。
「まぁ。少し休むとよい。こちらの部屋に来たまえ。」
案内された部屋にはソファがあり、座って休むことができた。お茶を出されたが、あまりおいしくはない。何か薬草を煮出したような味だ。
吉岡は、少し飲んで顔をしかめた。
それでも、エリザベスは平気な顔でカップのお茶を飲んでいる。
金髪・碧眼。農作業実習中だから作業着なんだけどとても気品にあふれおしとやかである。
そこに鎧姿のガタイの大きな男が向かいの椅子に座った。
「申し遅れたな、私は偉大なるカルマン帝国のガイ・ラーシン将軍だ。今回の作戦の責任者だ。」
「どうして僕たちはこの世界に来ることになったんですか?」
「魔法だ。魔法でふさわしいものを召喚した。わが国には優秀な魔法使いがいるのでな。」
「それじゃあ、その魔法使いに頼めば、元の世界に戻れるんですか!?」
「まぁ、しばらくは無理であろうな。今回の魔法は非常に魔力を使ったので、数か月は寝込んだままになるだろうからな。」
がっはっはと豪快に笑う。
数か月・・そんなに帰ることができないのか・・・
勇者って言ったよな・・・その間、何をやることになるんだろう?
「アノ・・・」
「なんだ?」
もじもじしながらエリザベスが言う。
「オテアライに行きたいのでスが・・・」
「なんだ、よかろう。 おい、案内してやれ。」
そばにいた侍女に命じる将軍。
侍女に案内されて、エリザベスは部屋を出て行った。
「それで、我々は何のために召喚されたんですか?」
「よく聞いてくれた。我々カルマン帝国は現在隣の国のシャイン王国と戦争状態にあってな・・・」
聞けば、隣の国とヘルマン帝国は長年戦争状態にあるとのこと。そして、近年かなり押されてきており、かなり負けそうな状況らしい。
その状況を打破するため、勇者としてシャイン王国と戦えということらしい。
「卑劣なシャイン王国は、これまでカルマン帝国を虐げてきた。その傲慢さに対し我々はもう黙っていることはできないのだ。」
「魔物とか魔王と戦うとかではないのですか・・・?」
「魔王?なんだそれは。おとぎ話か?」
「ゴブリンとかオークとかと戦うんじゃないのか?」
田中も困惑して聞いてる。
「そんなおとぎ話のようなものがいるわけないじゃないか。」
みんな青ざめた顔をしている。
どうやら、戦争の道具として呼び出されてしまったらしい。
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「こちらになります。」
「ありガトウございます。」
トイレに案内されたエリザベス。
そこは、日本と違って、石壁の部屋。とうぜん陶器製の便器なんか無い。
日本と違い、木の箱のようなものがおいてあるだけ。
それでも、エリザベスは全く驚いていないようである。
侍女のほうを部屋の扉の隙間から見る。
どうやら離れた場所にいるようだ。石造りの部屋で防音されていて声は聞こえないだろう。
ポケットからスマホを出して確認する。
ちゃんとアンテナが3本立っている。
電波は通じるようだ。
電話帳から番号を選んで電話をかける。
すぐに相手は電話に出た。
「隊長!大変です!」
流ちょうな日本語で話す。
「だから・・・隊長代理だって言ってるだろ。今度はどうした?」
もう何百回と繰り返した定番の返しをしてくる。
「それどころじゃないっす!私、異世界に勇者召喚されちゃいました!」
「はぁ!?」
電話の先から困惑した声がする。おぉ・・隊長の困惑する声は貴重だ。
「異世界って・・・どこの異世界だ?」
「ですから、この世界です。」
「この世界って・・もともと、お前の世界じゃないか。」
エリザベスの本当の名前はエルザ。エリザベスは偽名である。
彼女はもともとこの世界で生まれ育った。
そして、技術の発達している日本へ農業を学ぶために留学していたのだ。
実は日本語はペラペラなのだが、留学生らしくしようとカタコトなふりをしている。そしておしとやかな振りもしている。
「で?今どこにいるんだ?」
「カルマン帝国っす。カルマン帝国に勇者召喚されてしまいました。」
電話の向こうで、絶句する隊長。うーん貴重。
録音しておけばよかった。
「お・・・お前、カルマン帝国ってもろお前が生まれた故郷じゃないか。」
「はい、そうっすね。」
「しかも脱走兵扱いで指名手配されているだろ・・」
「えへっ・・そうでした。」
「えへ・・じゃない。ばれたら死刑だ。」
「もう5年も前っすよ、成長しているからわからないんじゃないすか?」
「あの陰険魔法使いにはばれるだろ。」
「・・・髪の色を染めてるし、カラコンしているから瞳の色も違うので・・何とかなるんじゃないかと・・」
もう、その魔法使いに会ったことは言わないほうが良いかな・・
ということで黙っておいた。
「なんとか国外脱出するしかないな。間にはシャイン王国もあるしな・・・」
「シャイン王国でも、追放処分になっていますからね・・」
「こちらでも考えるから、何とか脱出する方向で頑張れ。くれぐれも正体はばれないように。」
「了解っす!。隊長こそ大丈夫ですか?私以上に目の敵にされていますからね。」
「・・・代理だ。こっちはこっちで何とかする。だから無理はしないような。」
「ラジャ!」
この物語は、勇者召喚されてしまった若者たちが日本に帰るために奮闘する物語である。
ただし、その中の一人は、もともと異世界の人間。
そして
その性格には、かなり問題があった。
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