みなしごしなみ
点々と数字を上げていくエレベーターの表示版を見つめ、
――思ったより伸びなかったな。
誰かがつけた名前に殉じて、志を成すまで伸ばそうと決めた。予定では美しい黒髪ロングになってるはずが、いささか自分を過小評価していたようだ。
ポン、と小さな音を立て、スライドドアが開いた。
廊下に人影はない。局長室の前でひとつ呼吸を入れて扉を叩いた。
「志成美です。入ります」
局長は志成美の姿を認めると、
重厚な机の隅、漆塗りの四角い盆に、欲していた物が乗っていた。
局長は盆を滑らせ、厳かに言った。
「
「ありがとうございます」
志成美は深々と一礼し、盆から波の形をした襟章と見做しを示す赤線入の護士
「あと一歩で一人前ですね」
「そうだな。孤児の志成美が見做し護士波とは私も鼻が高いよ」
「局長のおかげです」
「誰のおかげでもない。強いて言うなら君を捨てた親のおかげだ」
孤児の志成美を引き取ったのは局長だ。礼をいうならまずはと決めていた。
局長は親の顔から上司の顔になった。
「油断するなよ。まだ見做しだ」
「はい。失礼いたします」
志成美は力強く答え、背を向けた。
廊下に出ると、菜々が壁を背に待っていた。仕事用のスーツだ。
「おめでとさん。見做し護士波、孤児志成美」
「ありがとう。名無し護士菜々」
名無し護士菜々は孤児志成美の護士教育を担当していた先輩護士だ。歳はふたつも違うが友人のように接してくれている。
「いよいよパートナーだね」
「ようやくと言ったほうが近いかな」
「私より早いのに」
「才能があったみたい」
「幸なるかな
とん、と弾みをつけて菜々が壁を離れた。
「早速だけど仕事だ。
「もう? お祝いのパーティーはなし?」
「午後の師の護士だよ? 居酒屋よりマシな物が食べられる」
菜々は志成美の肩を叩いた。
護士の仕事は皆、師の
「護士
エレベータが閉じると同時に菜々が言った。
志成美は眉を潜めて尋ねる。
「なにそれ?」
「予言。波乱が起きそう」
名無し護士菜々は五指を握り差し出した。
コツンと合わせ、孤児志成美は鋭く息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます