呪書

 呪いの書って聞いたことあるかな? まあ、たいていは子供の頃の怪談――怪談ってほどでもないか。ゲームとかマンガとかで見て、そんなのがあるらしいって。ふわっとした話をさ。する。

 でまあ、大人になってからそんな話を聞くと、思わず笑っちゃう。

 懐かしー、みたく。

 友達だったら、そんな感じ。

 でも上司に真面目に言われると笑えねえの。

 ウチ廃墟不動産の管理を始めてさ。言うわけ。

 あそこ、呪いの書が置いてあるって。

 大真面目に。

 青い顔してさ。

 汗ダラダラ。ハゲのおっさんが。

 言うわけ。

 僕、子供の頃からそういうのダメなんだよぉ。悪いんだけど。

 見てこいって。言われて。

 面倒くせぇけどさ。仕方ないし。

 あーい。

 なんつって。

 いったわけよ。

 嫌な感じの物件だったよ。

 とか始めたくなるじゃん?

 もう、普通。全っ然、普通の物件なの。

 廃墟っていうとぶっ壊れて落書きまみれでって、そんなイメージするじゃん? 

 普通。

 マンションっていうか。五階建てのね。窓とか出入り口だけ木で目張りしてあるんだけど。そんなのが三つ並んでて。

 呪いの書とかいうから洋館みたいなの想像するじゃん。

 笑っちゃって。地図も二度見したよね。

 建物の間には芝生の中庭。錆びたブランコ一個つき。外しとけよって。フェンス低いし、子ども入ってくんじゃね? って。

 まあ芝生も剥がれかけだしフェンスもあるし、大丈夫なのかな? って。

 借りてきた鍵で敷地の鎖を外してさ。

 そら子ども入んねぇよ。

 人いる感じがすごいんだよ。

 綺麗だから。

 窓とか、人いそうなの。いねぇけど。

 あー、くそ、嫌だなって。

 呪いの書――なんか正しく言うと呪書じゅしょって言うらしいんだけど、三号棟の二階にあるって。

 そこまで分かってんなら取ってこいよって。

 見たら。

 三号棟の入り口だけドアみたいにしてあんの。

 来てんだよ。

 誰か。

 そりゃそうだよな。だからウチのハゲも知ってたんだし。

 じゃあさ。

 そいつはどうしたんだよって。

 懐中電灯つけてさ。電気きてないから。埃っぽいけど、そこまで暗くもねえの。それが嫌なんだよ。

 暗いとこが気になんの。

 二階の廊下のさ、覗くと、ドアが一個だけ開いてんの。

 行って。

 靴のままよ?

 子どもの学習机が残してあんの。ふざけんなって。上にノートよ。普通の。

 こんなんでビビるかって。

 開いたら。

 まあなんかゴチャゴチャ書いてあって。

 最後に。

 一文字読むごとに歳を取りますっていう。

 子供だましよな。

 ざけんなって。

 思うよな。

 いま読んでるのがそれ。

 鏡みてみ?

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