美味しいサンドイッチの構成
僕は今にも包み紙から零れ落ちそうな、ケバブ食べようよオリジナルスパデラナチョチーズサンドタコスヨーロパカリー味の、めちゃくちゃにはみ出した具材を、顔を横にしたり斜めにしたり舌を伸ばしたりして食べつつ、言った。
「ちょ、これ……食い辛いよ」
ぼちょり、とチーズで固められた挽き肉の集まりが、厚焼きトルティーヤの突端からアスファルトへトペ・スイシーダを決めた。一匹のアリが死んだ。
販売責任者の自称トルコ人、メフメト・
「ソレ美味しさの秘訣ヨ!」
「……どゆこと?」
僕は、火傷をこさえてやろうと虎視眈々と手の甲を狙うスライストマトとチーズの黄金タッグに齧り付いた。
「物を乗せる食べ物、物を挟む食べ物、ヤリスギ大事ヨ!」
「……意味が分からん」
「今度、お家で試すイイヨ! 僕サン!」
だから僕は、僕は僕さんじゃないんだって、と思いながら顔をひん曲げて口を開けた。歯を立ててから、逆方向に首を傾げてアプローチした方が楽だったと気付いた。
手見さんは言う。
「八枚切りのトースト、二枚、トースターに入れるヨ。焼ける間にキャベツの葉っぱ二枚分、千切りネ。焼けマス。出します。マヨネーズ引く、黒コショかける、キャベツ乗せー、マヨネズ黒コショヨ」
「……ジャンクより酷くね?」
僕は口の周りにへばりつくヨーロパカリーソースの痛みに内心で悶絶していた。
手見さんはドムドムバーガーのラップサンドコブサラダに自前のトルコカリーをかけて齧り付いた。
「キャベツ千切り、はみ出してなかたら、増量ヨ!」
「……食いづらくね? これみたいに」
僕の手の中にあるナチョなんたらヨーロパカリー味は、すでに崩壊の兆しをみせていた――いや、あるいは、生まれたときからすでに壊れていたのかもしれない。
「だから美味しいヨ!」
手見さんの言葉によって、僕の脳内に住む一頭の赤い象が嘶いた。
「……どういう意味?」
「正常性biasの一種だヨ!」
「――な、に……!?」
急に飛び出てきた流暢な発音と小難しい単語に、僕は指先を痛めつけるチリソースを忘却した。
「食べにくいでショ? 食べるでショ? 食べにくいのガンバテ食べるー、美味しくなきゃ嘘ヨ!」
「――ッ!? ……な、そんな……!」
僕は驚き、恐ろしく食べ難いジャンクフードを見つめた。
「
手見さんの白い歯が、夏の太陽の下で輝いた。
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