SHIFT-シフト-

marushi SK

第一章 遭遇-MEET-

「父上!私はそのようなことに賛同できません!」

 反発すると、父は私を部屋へと押し込めた。

 二人の従者とも隔離された。


 幼い頃から見ていた、遥か彼方の星を映し出す機械を思い出す。

 そこに映し出される風景を。


 私はあの星が好きなんだ。

 だから守りたい。

 あの美しい星を壊したくないだけなんだ。

 宝石のようにひかり輝く、“地球”を……




***




 【第一章 遭遇 -MEET-】




 俺の名前は名倉創也なぐらそうや

 いたって普通の高校一年生。

 電車で高齢者に席を譲る勇気さえも出ない、そんな奴だ。

 そんな俺が出会った奴……物? いや、そもそも人間って言っていいのか、あれ?

 とりあえず、そいつとの出会いは俺を、ほんの少し変化させてくれた気がする。……気がする程度な!

 これから、その出会いの物語を語っていこうと思う。

 それは、ある夏の日から始まったんだ……




 いつもの帰り道。俺は幼なじみの藤田明宏ふじたあきひろとのんびり歩いていた。地面に何かが転がってるとも知らずに。

 まぁ、ご想像通り踏んづけて見事にすっ転んだ俺が足元を見てみると、そこには金色の腕輪のような物が落ちていた。

 どうするか、と明ちゃん(ふざけてこう呼ぶと怒る)とぐだぐだ話していると、

“アナタハ……選バレシ……者デス”

 ……なんて謎の声が聞こえてきた。どう考えてもこの輪っかから聞こえてくる。しかも電子音とか作られた音じゃない。

“アナタハ……選バレシ……者デス”

 またしゃべった!

 俺たちは気味が悪くなって猛ダッシュでそれぞれの家へ帰宅した。

 ……するとなぜか、その輪っかは俺の部屋の机の引き出しに“いた”。

 さすがに気味悪いどころじゃない!

 俺は輪っかを近くの公園のごみ箱に投げ捨てたり、川へ放り投げてみたけれど、結局俺が帰る頃には部屋に“いる”のだ。

「なんなんだよ、おまえは!」

 叫ぶと、輪っかが光りだして一人の青年が姿を現した。なんだか映像みたいだ。ホログラム?とかいうやつ?よくわからんが。実体じゃない。

「紹介が遅れた。私はシフト・ジュリー」

 銀髪で背が高くて、青い瞳でこちらを見つめてる。腰より下まで伸びる長い髪に、変わった服装。膝当てをしてる……なんか軽装の戦闘服みたいだ。

 シフトと名乗った青年は、俺に事情を語り始めた。

 曰く、この輪っかはキィ・リング。これに意識を乗せて宇宙船からやってきたのだとか。シフトの国の連中が地球に食料調達に来るから、阻止するために一緒に戦ってほしいと。

 ……いや待て、一体どっからどうつっこめば。

 詳しい話はまだできないと言い残し、そいつはリングの中へ消えた。

 意味がわからん。

 俺は鍵のかかる引き出しにリングを突っ込み、そいつを封印した。


 翌日、学校で明ちゃんが心配して声をかけに来てくれた。

 ……って! 机の中にリングが!?

 俺は適当に事情を話して明ちゃんにリングを一晩預かってもらうことにした。さて、あいつは戻ってくるのかどうか……


 夜。携帯を握りしめながら寝ていると、明ちゃんから連絡が。

「創也!そっち向かったぞ!」

 驚いて飛び起きると目の前にキィ・リングが!

 うそだろ……?

“ソーヤ。敵がこの近くに来ました。行きましょう”

 シフトはリングを左腕にはめろと指示して、俺を操作するから戦い方を覚えろと言う。

 いやいやいや……意味がわからないし無理だし意味がわからない。

 そうこう言っているうちに窓がガラッと勝手に開いて。俺の体は宙に浮いた。

 俺は夜の空を飛んで、目的地へやってきた。……と言うか勝手に着いた。

 シフトに左手を振るように言われてやってみると、どこからともなく剣が現れた。

“死にたくなければ私に任せてください!いきますよ!犠牲者が出る前に”

 地上へ降りると、シフトと似たような服装の男たちがニ、三人いた。

『ビスズか……?ミレイ団のビスズ隊長だな』

 え?俺勝手にしゃべってる?シフトが俺の体を借りてしゃべってんのか!

 シフトは隊長と呼んだ赤い髪の鉢巻きをした奴とよくわからない会話をしていた。

 その中から聞き取れた事……シフトが王子である事。シフトの国の奴らが人食いだって事。え、待てよ……じゃあ、食料調達って……

 どうやらシフトの爺さんが王だった頃、その国は爆発する直前の母星から逃げて来たらしい。住める星を求めて今も宇宙をさまよってる。

 元々は草食だった。国民同士の共食い時代が始まったのは食料不足のため。王が鎮めたが、星をみつけてはそこに生きる生物を食料にしてきた。

“私はそれが嫌でした。動く命を……血の流れる者を食べるなど”

 これは立派に反旗を翻しているのですよ、と言うビスズにシフトは俺と共に地球を守るため戦う……なんて事を言い出した。

 おい、何勝手な事言ってんだよ。

 もう国王側には戻らない事を告げると、ビスズはなんだかさびしそうな顔をしているように見えた。

 急に戦闘モードに入る連中。

 シフトがまた体を借りて剣を構える。

「あの目は……金の目!?」

 ビスズが驚いて俺を見るけど、なんだ?金の目って。

 そんな事を考えてるうちに俺の体は勝手に動く。たちまち二人を斬り捨てて、立っているのはシフトに乗り移られた俺とビスズだけになった。

 手に命の重みが伝わる。

 気づけば俺は叫んでいた。




***




『ビスズ。この者は戦いに不慣れなのだ。このくらいにしてやってくれ』

 気を失ったソーヤの代わりに私が口を開くと、ビスズはまだ息のある部下を連れて引いてくれた。

 去り際に、数日後に軍の本隊が来るでしょうと言い残して。

 その時はおそらく、本気で彼に向かう事になる。

 私は……剣を振ることができるだろうか。

 いや、やらなければならない。私はこの星を守ると決めたのだから。




***




 体に痛みが走って目が覚めた。

 よく見るとここは自分の部屋のベットだ。

 夢だったのか?……いや夢じゃない。さっきの戦いで傷ついた肩が地味に痛い。

 目の前にシフトが……シフトの幻覚がいた。俺を操作して部屋まで戻ってきたらしい。怪我はキィ・リングの力で治りかけていた。

 数日後にビスズ率いる軍勢がここにやって来ると言う。……それって、また俺が戦う事になるんだろうなぁ……でしょうねぇ……はぁ。

「ソーヤ。今は休んでください。これからはもっと大変になりますから。……戦いに慣れてください」

 だからなんで俺なんだよ……

 っていうか……なんかあの二人、昔からの知り合いなのかな……普通に会話してたし。敵同士ってじじゃなかった。

 まぁ、俺の気にすることじゃないか。




◆◆◆




「ビスズ隊長、あれでよかったんですか……?前に聞きましたが、ビスズ隊長とシフト王子は……」

「言うな。あれはもう昔の事だ」

「す、すみません……」

「王子は一度決めたらもう迷わないだろう」


(そんなところは……ちっとも変ってなかったな……。だから……)


「さぁ、軍に戻るぞ」

「はい……!」


(きっと王子は地球を守り抜く……)




 第一章 Fin

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