第27話 アリスの両親
「アリスちゃんの両親は三年前に亡くなっています。それから山崎さんがアリスちゃんを引き取って育てているんです」
「あぁ」
なんとなく想像はついていたので、圭介は案外すんなり納得した。
まだ二度しか店に訪れたことはないが、その二度ともアリスの両親に会うことはなかった。それどころか存在している気配も感じない。
居間から続く部屋も、アリスと山崎の部屋と真の更衣室にあてがわれているようだったし、携帯やパソコンを山崎が買って与えたという話を聞いたとき、ただの店員がそこまでするのは少しおかしいと思ったせいかもしれない。
「アリスちゃんには、親戚とかいないんですか」
「いますよ、いまでも」
少し悲しそうにそう語る。
「アリスちゃんのお父様、秋之助さんは代々人形遣いの家系なんです」
「人形遣い、腹話術みたいなやつですか?」
違います。と笑顔で訂正される。
「日本の古典芸能のひとつで、三味線伴奏に合わせて人形を操ってみせる人たちのことです」
と簡単に説明される。
よく理解はできなかったが、とりあえずすごい伝統のある家系の人らしいということはなんとなく理解できた。
「それでその人形遣いの家系だとなにか問題があるんですか」
話を前に進めるため、圭介がそう訊いた。
「はい、私も難しい理由はよくわからないのですが、とりあえず、伝統を守るためとか、そういったくだらない理由で外国人のマリアさんと結婚するのを、ご両親や親戚の方々が反対されていたみたいなんです」
「なんかドラマとかでよく見るパターンですね」
よくあるが古い話だ、身分違いの恋。禁じられた恋。でも現実に、アリスの両親は結婚を反対されたのだ。圭介は黙って話を聞いた。
「マリアさんの両親も、そんなことがあったものだから、大事な娘をやるわけにはいかないと、二人の結婚に反対して……それにもともとは日本に行くことも反対だったようで、マリアさんを国に無理やり連れ帰ろうとしたらしくて結局お二人は駆け落ちすることにしたんですよ」
互いの両親が望まない結婚。そんな環境で生まれてきたアリス。考えただけで、胸が苦しくなる思いがした。
「それでもお二人とも才能ある方たちだったので、マリアさんはぬいぐるみ作りを、秋之助さんは日本の伝統的な人形をマリアさんが作ったぬいぐるみに持ち替えて、老人ホールや児童館などを巡って人形劇などを見せながら細々暮らしていたようです」
そしてアリスの誕生とともに、二人はあの店を開業したらしい。
地に足つけて家族で生活するために。
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