第14話 喪服という戦闘服

「アリス! 行くぞ」


 山崎がアリスの部屋に向かって声をかけるとほどなくして襖が開く。


「ちゃんとタイマー録画セットしただろうな」

「さっきしたよ」

「本当だな、大丈夫なんだな」

「大丈夫だって」

「そうか、じゃあ行こう」


 そんなやり取りのあと振り返ったアリスは、呆けたように口を開けている圭介を見て怪訝そうに眉を寄せた。


「どうした圭介?」

「どうしたって……」


 もごもごと口ごもる。それから決心したように口を開く。


「まさかその格好で行くんですか?」

「なにか問題があるか?」

「問題というか……」


 別に問題はないといえばないのかもしれないが……


 さっきまでの普段着もフリルがついていて可愛かったが、今度の装いは同じフリルのついた服だったが先ほどとはあきらかに種類が異なっていた。

 首から膝まで真っ黒なワンピース。しかしところどころに黒いフリルやらリボンでが付いていて、肩の部分とスカート部分は普通ではありえない、ふっくらとしたふくらみがあった。それはついさっきたくさん見てきた、店のぬいぐるみと同じ、いわゆるゴシック&ロリータ略して、『ゴスロリ』と呼ばれているファッションだった。


「真が作ってくれたんだ」


 アリスの誇らしげな顔を見て、圭介は口を閉ざす。

 確かに金髪に深い緑の眼のアリスにその服は良く似合っていた、黙っていれば本当に童話から抜け出してきたお姫様みたいだった。

 しかしここは日本だ。その格好は似合っていたが、それ以上に目立ちすぎる。さらにこの和室ではうきまくっていた。


「まあ、気にするな、彼女なりの喪服みたいなものだ」


 山崎が圭介のそばで耳打ちする。


「喪服?」


(そうか、除霊するんだもんな、だから全身黒いのか……でもなんかちょっと違わないか?)


 そう思ってふと隣に立った山崎を見上げる。

 いつのまに着替えたのか、白いシャツに黒いネクタイ、そしていままさにその上から黒い背広を羽織ろうとしていた。

 アロハシャツ姿からぬいぐるみ職人は連想できないが、黒スーツからはさらにチンピラからヤクザに格上げされたようだった。


「喪服……」


 この二人の姿に誰がそれを想像できるだろう、そして圭介はそんな二人を引き連れて今から自分の家に向かわなければならないのだ。


「どうか知人に見られませんように」


 小声で願う。


「何か言ったか?」

「いえ」


 引きつった笑いを浮かべてごまかした。

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