八話 蛇竜と連携攻撃
サヤたちが進んだ先――
そこは今まで進んできたどのエリアよりも広く、天井も高い空間が広がっていた。
そんな空間の中央に……〝それ〟はトグロを巻いて佇んでいた。
『ほう……私のテリトリーに侵入してくる者がいるとは珍しい』
サヤの《異種族言語理解》スキルによって、それの声が言葉として聞こえる。
「シグレ、こいつは何だ?」
【……コヤツの名は〝サーペントドラゴン〟じゃ。ランクはBランク、十分に気をつけて戦うのじゃ!】
『まさかここまで巨大とは……身震いしてきましたぜ……!』
サヤの質問にシグレが答え、その横で文字通りミノがぶるりと身震いしている。
その者の名はサーペントドラゴン。
シグレの言った通り、ランクはBランク。
十メートルほどの体長と岩のような硬質な鱗を持った下級のドラゴン族モンスターだ。
サーペントの名の通り、ドラゴンというよりは蛇に近い姿をしている。
『私の言葉が通じる……? それに相手の言葉がわかるだと? これは一体どういうことだ?』
自身の言葉が通じたこと、サヤたちの言っていることが理解できることに、サーペントドラゴンは不思議そうに言葉を漏らす。
今まで多種族と意思の疎通をしたことがなかったのだろう。
先ほどまで好戦的に鋭く細められていた瞳を大きく見開いている。
【サヤ、コヤツと少し話してみるのじゃ。もしかしたら戦わずして配下に加えられるかもしれん】
「我としては戦いたいところだが……わかった、シグレが言うなら従おう」
言葉が通じたことに戸惑うサーペントドラゴンを見て、シグレは戦わずに配下に加えられないかと考える。
強くなることに重きを置くサヤとしては、戦いを避けるという行為は如何なものかと思うところもあるが、シグレに言われては仕方がないと従うことにする。
ミノは静かに『助かったぜ……』と安堵の息を吐くのだった。
「サーペントドラゴンよ、互いの言葉が通じるのは我のスキルの効果によるものだ」
『なんと、これはスキルによるものなのか……? お前のような脆弱なモンスターが、このようなスキルを持っているとは、驚きだ』
「……言葉が通じたところで、お前に提案がある。今、我は配下を求めている。我の配下の加わる気はないか?」
サーペントドラゴンの〝脆弱なるモンスター〟という言葉に、サヤは一瞬だけ気を逆立てるも、シグレに言われた通り配下に加えようと話を切り出す。
そんなサヤの提案に、サーペントドラゴンは――
『キシャシャシャシャ! 面白いことを言う! なぜ強者たる私が、脆弱なるお前に従わなければならない? 会話をできたことは楽しかったが、お前のような弱き者の配下に加わるなど御免だ。……まぁ万が一にも、お前が私を倒せたのであれば話は別だが、それは不可能であろうな!』
――そう言って高笑いする。
まぁ、交渉とも言えぬサヤの提案を聞けば、こうなって当然というものではあるが……。
「だそうだ、シグレ。戦ってもいいか?」
【サヤに交渉を任せること自体が失敗だったのじゃ……。まぁ良い、思いっきりやるといいのじゃ!】
『ひぃぃぃぃ! 結局こうなるんですかい!?』
戦ってもいいか? と聞きながら、サヤは既にシグレを抜いて構え始めている。
そんなサヤに呆れた様子を見せながらも、シグレは彼を鼓舞する。
結局戦うハメになったことに、ミノは小さく悲鳴を上げるが、自分も戦斧を構えて臨戦態勢に入るのだった。
『キシャシャシャシャ! 面白い! まさか本当に立ち向かってくるとは! いいだろう、私がまとめて喰らってやる!』
再び高笑いをするサーペントドラゴン。
まさか、自分よりも格下のサヤたちが、本当に戦いを挑んでくるとは思わなかったらしい。
そして言葉とともに、長大な尻尾による薙ぎ払いを放ってくる。
ダンッ! と、その場からサヤとミノが大きくバックステップする。
二人が今まで立っていた地面を、サーペントドラゴンの尻尾が大きく抉り取る。
もし当たっていたら、ひとたまりもなかったであろう。
「あの巨体でここまで速い攻撃を繰り出すか……ッ」
『ほう、骨如きが私の攻撃を避けるか……』
互いに言葉を漏らすサヤとサーペントドラゴン。
両者の視線(サヤに目玉はないが……)が交差する。
そしてどちらからともなく、その場から勢いよく飛び出した。
サーペントドラゴンはその顎門を大きく開いている。
どうやらサヤを噛み砕くつもりらしい。
対し、サヤは【スケルトンセイバー】から得たスキル、《エンチャント・ウィンド》を発動し、サーペントドラゴンの牙を躱してみせる。
『俺を忘れるんじゃねぇ!』
サーペントドラゴンの背後から声が上がる。
無視される形となったミノが
サーペントドラゴンの尻尾に向かって、戦斧を一気に振り下ろす。
『キシャァァァァァァ!? 小癪なマネを!』
ミノの戦斧が、サーペントドラゴンに強撃を与えた。
岩のような鱗を砕く――とまではいかないものの、小さなヒビを入れることに成功する。
「余所見してる場合か……?」
サーペントドラゴンがミノに気を取られたその刹那――
静かに言いながら、《エンチャント・ウィンド》の気流を操り高速移動したサヤが、瞬速の斬撃を放った。
『グギャァァァァァァ――ッッ!? わ、私の……私の鱗が切られただと!?』
サーペントドラゴンの絶叫。
そして戸惑いの声が轟く。
サーペントドラゴンの鱗――その何枚かが、スパッと綺麗に切り裂かれていた。
「……まさか、あの岩みたいな鱗すら切れてしまうとはな」
【当たり前じゃ! ワシは妖刀じゃぞ? 切れ味……すなわち攻撃力には自信をもっておる。防ぎたければ〝アダマンタイト〟の防具でも用意するのじゃな】
まるでバターでも切るかのように、サーペントドラゴンの鱗にダメージを与えられた。
その事実に、斬撃を放ったサヤですらも驚く。
シグレは【ふふんっ】と笑い、自慢げな様子で応える。
彼女の言った通り、シグレはただの刀ではなく妖刀だ。
通常の刀剣類の切れ味の限界……それを楽々と超えているのである。
それほどの呪いの装備であれば、使用者への呪いの効果は凄まじいものになるはず……なのだが、肉体を持たないサヤに、そういったデメリットは無関係なのである。
「ミノ、今のうちに畳み掛けるぞ……ッ」
『了解です、サヤ様ッ!』
サーペントドラゴンの動きが、切られたことにより鈍くなった。
これだけ頑強な鱗、今まで切られるという経験をしたことがなかったのだろう。
その隙を突いて、サヤとミノが一気に攻撃を叩き込もうと動き始める。
『お前の弱点は、もう見切ったぞ!』
ミノが叫びながら戦斧を振り上げる。
サーペントドラゴンはそれに反応することはない。
激痛で対処するのがツライというのもあるが、それよりも意識をサヤに集中させておきたいのだ。
ミノからの攻撃を受けても、せいぜい鱗にヒビを入れられる程度で済むだろう。
だが、サヤの相手を疎かにしていては、またシグレによる斬撃で深く切り裂かれてしまう。
そう判断しての選択だったのだが……。
ベリ――ッッ!
何かが勢いよく引き剥がされるような音が響いた。
そして次の瞬間――
『キシャァァァァァァ――ッッ!? 鱗が! 私の鱗がぁぁぁぁ!』
再びサーペントドラゴンの絶叫が木霊する。
見れば、サーペントドラゴンの鱗のうちの一枚が、血塗れになって地面に落ちているではないか。
『ブモッ……お前の鱗は頑丈だ。だが、鱗には隙間がある。そこに斧をぶち込んで、無理やり引き剥がしてやったんだ!』
苦痛で叫ぶサーペントドラゴンに、ミノが『してやったり!』といった表情で、言葉を浴びせる。
【ミノめ……やるではないか!】
「ああ、我も負けてはられないな」
相手の弱点を突き、大きな一撃を与えることに成功したミノ。
シグレとサヤは感心しながら、自分たちも攻撃に加わる。
何度も斬撃を放ち、サーペントドラゴンに着実に傷を与えていくサヤ。
サーペントドラゴンもただやられているわけではない。
サヤの体を砕こうと、尻尾や顎門による攻撃を繰り出すのだが……それらを全て、サヤは体術とスキル、シグレの能力を駆使して躱していく。
そしてその隙に、ミノも攻撃を仕掛ける。
『こうなれば、奥の手だ! 喰らえ、《サンド・ブレス》……ッ!』
サヤがサーペントドラゴンの攻撃を躱した直後だった。
敵はスキルを発動する。
巨大な顎門――その中から、数百の礫がとんでもないスピードで放たれた。
攻撃の射程は広範囲だ。
サヤの《エンチャント・ウィンド》を駆使しても、躱すことは無理そうだ。
こんな攻撃をまともに喰らっては、スケルトンであるサヤはひとたまりもない。
だが、サヤはその場から動かない。
そして静かに、とあるスキルを発動する――
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