二話 ランクとステータス

「ハァァァ――ッ!」


 迷宮の中に裂帛の声が響き渡る。

 声とともに、漆黒色の閃光が走り抜ける。


『グギャ……?』


 そんな声を漏らすゴブリン。


 その直後であった――

 彼の首がころりと地面へと転げ落ちた。

 もちろん、サヤが放った斬撃に首を刎ねられたのだ。


 あれから二日、サヤはシグレとともにゴブリンとの戦いに明け暮れた。

 この二日間で袈裟斬りや刺突などを意識して放つことが出来るようになっていた。


「む、何だこの光は……?」


 と、ここでサヤが不思議そうな声を漏らす。

 彼の体が淡く青白い光を放ち始めたのだ。


【ほう、この光は……喜べサヤ。どうやら〝クラス〟を得たようじゃ】

「クラス? 何だ、それは」

【そうか、お前にはまだ教えてなかったな。妖刀である我を手にした者は、経験を積むことでクラスという新たな力を得ることが出来る。今のゴブリンを倒したところで、お前の技量レベルが条件値に達したのだ。今回お前が手にしたクラスは〝スケルトン・セイバー〟じゃ。今まで使うことが出来なかった〝スキル〟を使えるようになっているはずだから試してみるといい】


 試してみろと言われてもどうしたものか……。

 そんなことを考えたサヤの思考の中に囁きのようなものが流れ込んでくる。


「なるほど、我の手に入れた力は大体理解した。よし、試してみるとしよう……《エンチャント・フレイム》……ッ!」


 そう言って、サヤが新たな力――スキルの名を口にした瞬間……シグレの刀身に、ゴウっ! と紅蓮色の炎が纏わり付いた。


 属性付与スキル《エンチャント》、手にした武器に四つの属性の内の一つを付与出来る性能を持っている。


 ちなみに属性の内訳は、火・水・風・地の四つである。


【なかなか火力がありそうなスキルではないか、これであれば火が弱点の敵に効果てきめんじゃろうな】

「シグレ、大丈夫か? 刀身に火がついているが、熱くないか?」

【なんじゃ、ワシを心配してくれるのか? 安心せい。ワシは妖刀じゃ、これくらいダメージになりはせん】

「そうか、お前は丈夫なんだな」

【当たり前じゃ、妖刀だからな。それよりもどうじゃ? 新たな力を手に入れたことだし、他の階層へ行ってみんかの?】

「他の階層……さらに強い敵がいると言っていた場所のことか?」

【うむ。お前もなかなか強くなってきたが、さらに鍛える為に、より強い敵と戦おうというわけじゃ】

「面白い、我の手に入れた強さがどこまで通じるのか、試してみるか」

【そうと決まれば、さっそく行くとするのじゃ!】


 シグレの言葉に頷くと、サヤはスキルを解除して迷宮の奥へと進んで行くのだった。


 迷宮二層目――


『ブヒョォォォォォ――ッ!』


 サヤが次なる階層へと足を踏み入れた瞬間、耳障りな雄叫びとともに敵が駆けてくる。


 敵の名は〝オーク〟という。

 身長百八十センチはあろう、豚人型のモンスターだ。


【サヤ! ヤツの弱点は火じゃ。さっそく手に入れたスキルを使うのじゃ!】

「了解した。いくぞ……《エンチャント・フレイム》!」


 鞘からシグレを引き抜くとともに、スキルを発動。

 再びシグレの刀身に炎が纏わりつく。


『ブギャッ!?』


 武器を使う脳すらないはずのスケルトンが得物を構えた。

 その上、弱点である炎属性のスキルらしきものを発動したことに驚き、オークが一瞬動きを止める。


「好機……ッ!」


 その一瞬をサヤは見逃さなかった。

 シグレによって強化されたスピードを駆使して、一瞬の内にオークとの間合いを詰める。


 ――何か分からないが、こいつはヤバイッ!


 オークはそう判断し、咄嗟に距離を置こうとするが……。


 ゴウッッ!


 それよりも速く、サヤは斬撃を放った。


『ブギャァァァァァァァァァッ!?』


 オークの悲鳴が響き渡る。


 漆黒の一閃はオークの腹を大きく切り裂いた。


 それだけでは終わらない。

 斬撃はスキルによって炎を纏っている。


 オークの肉質は脂が多い。

 そしてその脂に炎が燃え移り、激しく燃え上がったのだ。


 腹を切られた激痛と、燃え上がる炎にのたうち回るオーク。

 このまま死ぬのを待ってもいいのだが、敵が苦しむ様を楽しむ趣味など持ち合わせてはいない。

 サヤはスキルを解除すると、そのままオークの頭を刎ね飛ばすのだった。


【なかなかの手際に良さだったぞ、サヤ】

「まさかホブゴブリンよりも強い相手に、これほど容易く勝てるとは思わなかった。スキルとは良いものだ」

【うむ。相手との相性を理解し、スキルを使いこなせば、例え敵が格上だろうと勝利することが可能なのじゃ】


 格上の相手をここまで容易に倒せたことに、サヤはスキルの優秀さを実感する。

 そして、もっと色々な力を使いこなせるようになりたいという欲求に駆られる。

 骨のみの顔に表情はないはずだが、どこか笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。


「そういえばだが、シグレ。オークというのはモンスターの中でどれくらいの強さに当たるのか教えてくれないか」

【ほう、お前もそういうことが気になるようになってきたか。いいじゃろう、教えてやる】


 サヤはふと思った疑問をシグレに投げかける。

 すると彼女は嬉しそうな声で応える。

 その反応は、まるで自分の子が色々なことに興味を持ち始めたことを嬉しがる母親のようだ。


【まず、モンスターには〝ランク〟と呼ばれる強さの階位が存在する。人間たちはモンスターのランクを大きく六つに別けており――】


 シグレが説明を始める。


 モンスターはその危険度により、特例を除けばE〜Sに階級分けがされている。

 内訳は大まかに言えばこうだ。


 Eランク=武装をすれば一般人でも倒せるモンスター。


 Dランク=戦闘に覚えのあるものでなければ倒せないモンスター。


 Cランク=武装した成人が複数人で挑み始めて討伐可能。単騎で挑む場合はベテランでなければ討伐は難しい。


 Bランク=小さな村であれば滅ぼしてしまえるモンスター。挑む場合は強力なスキルを持った者が必要となる。


 Aランク=大都市をも滅ぼす事がある上位のモンスター。例外はあるが、討伐には一流の戦闘技術・スキルを持つ者が複数人必要。


 Sランク=国家を滅ぼしかねない戦闘力を持ったモンスター。国家戦力をもって対応するべし。単騎で対応できるのは〝勇者〟と呼ばれる特別な力を持つ者や、それに準ずる力を持った者のみ。


【――以上じゃ、他にもいくつか特例があるが……それはその内説明するとしよう。そしてオークじゃが、確かDランクと位置付けされていたはずじゃ。ちなみにホブゴブリンはDマイナスだったかの】

「人間……前に言っていた高い知能を持つという種族のことだな。それにランクか、なるほど分かりやすい。それで、我はEランクというわけか」

【その通りじゃ。ちょうど良い、クラスを得たことじゃし、お前に自身の〝ステータス〟を見せておくとするのじゃ】

「ステータス? なんだそれは」

【まぁ、見れば分かる……それ、ステータス展開じゃ!】


 シグレが言うと、サヤの視界にいくつもの文字が浮かび上がった。

 記されていたのは次のような内容だった。


==============================

名前:サヤ

種族:スケルトン

ランク:Eランク

所持クラス:【スケルトンセイバー】

通常スキル:《エンチャント》

装備:妖刀・闇時雨

==============================


「これは……我のことが記されているのか?」

【その通りじゃ、ワシは所持者の状態を、大まかに所持者自身に把握させることが出来るのじゃ】

「なるほど、これも便利だ。感覚で自分の能力を自覚するより、しっかりと所持しているスキルを把握できる」

【そうじゃろ? そして、敵を倒せば倒すほど、お前自身の能力も上がっていくのじゃ!】

「さらに強く……よし、先に進むとしよう。他の《エンチャント》も試してみたいしな」


 シグレの言葉を受け、サヤを握る力を強めると、少しワクワクしたような口調で先へと進む。


 今まで狩られる側だった彼にとって、強くなりたいという意思は何よりも強いのだ。

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