第224話 ヤトアの子
ゼルたちに説明したら神殿に連れてきて翡翠を紹介した。
「よ、よろしくお願いします」
なぜか土下座挨拶する翡翠。自分を卑下しすぎだろう。守護聖獣なんだから堂々としろよな。
「よろしく頼む。レオノール国の民を守ってくれ」
「あ、はい。精一杯努力します」
だからヘコヘコするなっての。ゼルたちも戸惑っているだろうが。
「しばらくレオノール国を回って翡翠を紹介してくる。ギギも連れていくからマイノカの守りは頼むぞ。途中でレブたちに会ったら戻るよつに言っておく」
オレより守護聖獣としてレオノール国中を駆け回っているチェルシーとミディア。オレも頑張らないとな。
出発の準備はギギたち巫女に任せ、翡翠を連れてマイノカの案内をする。
「ファンタジーですね」
マイノカを見た感想がそれだった。うん。お前が一番ファンタジーだけどな。
「……スマホもネットもなしか……」
テレビと出てこないところをみると、二十代で死んだようだ。若くて死んだのは哀れだな。
「この世界もそう悪いもんじゃない。新しい命を楽しめ」
十年も生きてたら前世の生活も忘れるさ。食うことが最大の楽しみとなり、それが喜びとなる。趣味や生き甲斐は自分で見つけてくれ。
「師匠」
闘技場でゼルム族の競争を眺めていたらヤトアが嫁さんズと子供を連れてやってきた。
「どうした?」
「子供が五歳になったんでな、祝福してくれ」
「もう五歳か。時が過ぎるのが早いものだ」
産まれたのはつい最近に思えるよ。
「名前、なんだっけ?」
悪い。欠片も思い出せないよ。だって、ヤトアは五人の嫁がいて子供はなんか十人くらいいるし……。
「サクヤ、サオウ、オウカ、マリカだ」
あーなんかそんな和風の名前だったな。誰が誰だかまでは思い出せんけどな。
謎触手を伸ばすと、ビクッて怖がる子供たち。てか、物心ついてからオレを見たことないのか? いや、マイノカにいること少なかったしな。怖がれても仕方がないか。
「お前たち。師匠は怖くないから大丈夫だぞ」
父親の顔を見せるヤトア。若く見えるがヤトアも三十を過ぎているんだったよな。なんかオレと関わる者は若く見えるから時の流れがわからなくなるぜ……。
「もしかして、わたしが怖いんじゃないんですか?」
そういや、子供たちから見てオレの後ろに翡翠がいる。オレじゃなく翡翠を見てたのか?
どれ、と退いてみる。
子供たちは口を開けて翡翠を見上げていて、怖がっている様子はない。うん。オレが怖かったようだ。なんかショック。結構子供には人気だと思ってたのに……。
「翡翠。子供たちを手に乗せてやれ」
長い付き合いとなるんだからスキンシップしておけ。
「だ、大丈夫なんですか? 潰れたりしません?」
「手に乗せるだけだ。下手に動かなければ大丈夫だ」
凶悪な爪は持っているが、手の爪はそこまで鋭利ではない。触ったくらいでは切れたりしないはずだ。足の爪は鋭利だけど。
水を掬うように手を合わせ、子供たちの前に差し出した。
「お前たち。乗ってみろ。楽しいぞ」
ヤトアも母親たちも止めることはしない。嬉しそうに笑っている。まあ、守護聖獣に乗るなんて巫女か王族、あとは子供くらいか。オレの毛で産着やら結婚衣装(だっけか?)に使ったりするんだから名誉なことになるんだろうよ。
翡翠を怖がらない子供たちはヤトアに持ち上げられて翡翠の手に乗せられた。
戸惑いながらも翡翠の毛の感触を確かめたり、指を触ったりしている。
「さすがヤトアの子だ。度胸がある」
オレを怖がったのはなしとさせていただきます。オレの心を守るためにな。
「ちっちゃいですね」
お前がデカいだけだよ。
「まあ、子供たちのほうが年上ってのも変なものだがな」
翡翠はつい最近産まれたんだから子供たちのほうがお兄さんお姉さんってのが笑えるな。
「よ、よろしくね、サクヤちゃん、サオウくん、オウカちゃん、マリカちゃん」
キャッキャとはしゃぐ子供たち。将来大物になりそうだ。
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