第210話 Sランクの弟子たち
まずは、少し離れてから試合を開始する。
オレには弟子たちの臭いと気配がよくわかるが、三人はオレの場所はわかっていたいようだ。
人間やゼルム族、ゴゴールの嗅覚ではオレの臭いは嗅ぎ取れないだろう。オレは常に綺麗にしているし、水浴びもしているから獣臭はない。ギギからいい匂いと称賛されるくらいなのだからな。
まあ、モンスターも臭いを立たせない者はいるので、臭いで位置把握するのは止めておいたほうがいいだろうな。
大体にしてモンスターは隠密性能が高い。Sランクのモンスター以下は補食対象でしかない。SSSランクのオレですら勝てない存在がいるのがパラゲア大陸と言うところなんだからな。
ただ、オレがよく相手してるからか、三人はオレの位置をなんとなく察している感じがする。隠れているオレを囲むように動いているよ。
これがSランクのモンスターなら狩れるだろうが、オレには悪手と言うもの。各個撃破していけばいいだけだ。
だが、それは三人もわかっていること。あえてやっているんだろうよ。
「じゃあ、付き合ってやるか」
樹々の中で一番機動力が落ちるのはゼルム族のゴードだ。飛び蹴りして樹を上がることも可能だが、ここの樹は高く、枝も伸びてはいない。ゴードには不利な場所だ。
音を立てずにゴードの背後に回ったら、蔦が張り巡らせてあり、突き破ろうとしたらなにか粉が降ってきた。
──毒か!?
「アハハ! 容赦がなくていい!」
本気で向かってきてるとわかって楽しくなってしまった。
あまり深読みせず、風で粉を吹き飛ばしてやると、ヤトアが近づいてくるのがわかった。
おー。オレの気配が乱れたのを突いてくるとか本当に成長したものだ。
きっと毒のある武器を持っているのだろう。オレも殺す手段は限られてくるからな。
……毒はピリッとして味変したいときにいいんだよな……。
後ろ左足で樹を軽く蹴り、葉を落とした。
「レオガルド流木の葉隠れ!」
風を吹かせて体を葉で隠した。
ヤトアの気配が乱れた瞬間、葉を爆発させて現れた──そこに気配を殺したロズルが背後に現れた。
ほー! オレが気付かないほど気配を殺すとか凄いな! まったくわからんかったぞ。
ロズルは氣を使う。ゴゴール族すべてが使えるかはわからないから練習しろとは告げたが、まさかここまで使いこなせてるとは驚きだよ。
呪霊や氣がある世界とか、よくわからん世界だよ。
氣を纏った拳がオレの背中にヒット。なかなか威力のある衝撃が襲ってきた。
Aランクのモンスターなら吹き飛んでいることだろう。この短期間でよく鍛えたものだ。
痛みはないが、受けた衝撃を逃すために体を捻って地面を転がった。
すぐに起き上がり風の刃の乱れ撃ち。オレの胴体はありそうな樹が何本も斬り倒した。
これでも六割にも満たない呪霊力だ。全力なら周辺の樹を微塵切りにできるぜ。
倒れる樹の陰から三人が一斉に出てきて剣や槍、拳を放ってきた。
どれもAランクのモンスターなら瀕死の威力。人間やゼルム族、ゴゴールに出せる威力ではない。
前々から考えていた。もしかして、オレがこいつらを強くしているのではないかと。
これまで狩ってきた群れを率いるモンスターは部下を成長なり進化させていた節があった。
それはオレにもあり、三人を成長なり進化させたのではなかろうか?
たぶん、一般のヤツらも同じ影響を与えているのかもしれない。出会った頃からかなり理性的になり知恵がついている感じがするのだ。
そんなことを考えていると、三人の動きが落ちてきた。
やはり全力で戦うと一時間くらいがやっとか。三人でならSSランクまでなら戦えるかもしれんな。
「それまで!」
三人を謎触手で打ち払って終了させてやる。
「いい動きだったぞ」
息を切らす三人を集めて小川に放り込んでやった。もちろん、雷を放って寄生虫とか滅してからな。
「……まったく歯が立たなかった……」
「そうしょげるな。なかなかいい攻撃だったぞ。Sランクモンスターなら個々でも倒せるだろうよ」
完全に人の域を出ている。人間相手なら一対五千でも勝てるだろうよ。
「お前たちはまだ若い。もっと鍛えればオレを追い込めるかもな」
「負けるとは言わないんだな」
「師匠が負けるなど軽々しく言えんよ」
こいつらに情け無用。とことん追い詰めたほうが成長するタイプだからな。
「よし。まだ元気ならもう一回やるぞ」
謎触手を振り上げ、三人のケツを叩いてやった。
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