第209話 悪い芽は早いうちに摘め
秋になった。
収穫はほとんどの者が駆り出されるので、使節団を連れて巫女温泉に連れていくことにした。
ミディアやチェルシーが定期的に往来してくれてるので道は均されており、人間の脚でも二日でいけるので、荷物は陸軍と銃士隊に牽かせて使節団の連中には歩いてもらった。
「この辺にもモンスターはいるので?」
途中のキャンプ地で夜営する準備をしていると、せっかくだからと誘ったミドロアが訊いてきた。
「モンスターは……いるな。だが、準モンスターっぽいな。ゴード。狩ってこい」
弟子三人も護衛のために連れてきて、ゼルム族のゴードに命令した。
「わかりました──」
弟子たちには準モンスターなど雑魚でしかないが、夜目が一番いいのはゴードだ。月も出てるし問題ないだろう。
少ししてミゴール(コモドオオトカゲ)のデカいのを引きずってきた。
「なかなかデカいのがいたな。ちょっと離れていろ」
ミゴールに謎触手を触れさせ、寄生虫や毒を殺すために雷を放った。
「解体して兵士に振る舞ってやれ」
人間の舌にも合う。兵士たちにはご馳走となるだろう。
「これは美味いですな!」
使節団の連中にも合ったようで、腹一杯食べていた。
オレは解体した余りをいただいて小腹を満た……せんな。六メートルくらいのサイズだったし。
「ヤトア。この場を任せる。腹を満たしてくる」
そう言って森の中に入り、近くの沼に生息していたミゴールを踊り食い。味はともかく腹は満ちた。
謎触手で抱えるヤツを二匹、巫女温泉に届けたらキャンプ地に戻った。
何事もなく朝を迎え、その日の夕方には巫女温泉に到着した。
ゼルム族が通っているので、巫女温泉の発展が早い。ミナレアからも集団で移り住んだとかで、ちょっとした町になっていた。
……そのうち巫女温泉町とかになりそうだな……。
「巫女温泉を取り仕切っているロドロです」
そうなのがいたんだ。いや、これだけいたら取り仕切るヤツがいないとダメか。
「うむ。使節団を連れてきた。よろしく頼む」
くることは先に伝えてある。寝る場所を用意していてくれてるはずだ。
「はい。使節団の方々。こちらへ」
「ミロウド伯爵。できたばかりのところで歓待はできないが、ゆっくり湯につかり休んでくれ。落ち着いたら巫女温泉を歩き回ってみるといい」
観光地ではないので見るものはないが、
使節団はロドロに任せ、オレらは主要メンバーを集めて話し合いをする。
「
「こちらの手の内を曝すようなものでは?」
「いろいろ理由はあるが、レオノール国の武威を諸島連合体に見せつけるのと、
「どう言うことだ?」
「簡単に言えば、レオノール国にはこれだけの戦力があるぞと教え、
大陸の国がレオノール国に攻めてくるにはいくつもの問題を片付けて、何年もの準備が必要だ。十年に一回攻めてくるのがやっとのはずだ。
「今、
まだ飛行機がないのだから攻めてくるには船を使うしかない。
一月もかかる航海の果てに、疲れ切った体で侵略しなくちゃならない。数で押し切るにしても船を接岸させる場所も限られる。
「人間がレオノール国を落とすにはまずはコルモアを落とさなければならない。
仮に破れたところでまだ
「今は侵略より騎士ワルキューレのモチベーションを高め、未来に繋ぐことが大事だ」
種族間の戦いはなくなった今、他の種族と戦わず、戦力を維持していくには名誉ある場を作らなければならない。
レオノール国に騎士ワルキューレありと、人間たちに知らしめる場は打ってつけだろう。
「レオガルド様は、そんなことまで考えるんだな」
「そんなこと、と片付けるとあとで痛い目に合うからな。まだ問題が小さいときに解決しておくんだよ」
違う種族が一つの国で生きる。問題しか出てこないのだから悪い芽は早いうちに摘んでおくべきだ。
「明日からマイノカにあるような闘技場を造る。ついでだ。弟子たち成長を見てやろう」
拓くなら暴れても同じ。なら、オレ対弟子たちで戦って森を拓いてやろう。
「ふふ。三対一か。本気でいいんだな?」
「なんだ? 手加減してオレに挑んでたのか?」
ヤトアの本気を挑発してやった。
「いいだろう。殺す勢いで挑んでやるさ。ロズル、ドーゴ。作戦会議だ」
「勝てる作戦を考えろよ」
この場を離れていく三人をさらに挑発するが、教えがいいので激怒したりはしない。振り返らず去っていった。
フフ。精々がんばれよ。
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