第201話 船団

 レオノール歴十九年の春は雨が多い年だった。


「今日も雨か」


 風を操れるオレに雨など関係ないが、どんよりとした空を眺めていると気分が落ち込んでくるぜ。


「師匠。ヘビだ」


 オレたちは今、蜂蜜をコルモアに運んでいる。


 人間の中に蜂蜜酒の作り方を知っているヤツがいて、酒が飲みたいヤツの声に押されて、ヤトアたちを連れて蜂蜜をコルモアに運んでいるのだ。


「春だしな」


 この大陸のヘビは春に子を産み、夏にかけて活発になり、秋に交尾をして冬に冬眠する。


 普段は現れたりしないのに、雨で活発になったんだろうか? あ、それはミミズか? 


「手頃なサイズだし、コルモアに持ってってやるか」


 オレはあまりヘビは好きじゃないが、人間は結構好きな味をしているようで、持ってってやると喜ばれるのだ。


「おれがやる」


 槍を持ったゴードが背負っていた荷物を降ろして十メートルはありそうなヘビに襲いかかった。


 この大陸のヘビは基本、待ち伏せして獲物を狩るが、十メートル以外のヘビは若いからか活発に動き回り、ときには襲ってきたりする。


「ゼルム族が頻繁に通るのを見て出てきたか?」


 襲われたって話を前に聞いたことがある。ヘビからしたらいい獲物に見えるんだろう。自分が狩られる立場だと知らずに、な。


 あっと言う間にヘビを倒し、ヤトアが剣で輪切りに。オレの謎触手で絡めてコルモアに向かった。


「今年はヘビが多くて毎日肉が食えます」


 コルモア周辺でもヘビがよく出るそうで、毎日のように狩ってくるそうだ。


「飽きないのか?」


「いろいろ調理法を考えていますからね、飽きることはありませんよ」


 余裕が出てきた証拠か。よきかなよきかな。


「久しぶりに魚が食いたいな」


 肉に飽きたってことはないが、たまには海の味が食いたくなるのだよ。


「お前たちはコルモア周辺を伐採してこい」


 人間たちも伐採はしているだろうが、この大陸の草木の成長力は異常だ。獣が隠れられないように伐採するのも必要なのだ。


 芝刈りは三人に任せてオレは海に狩りに出かけた。


「外港は完成したか」


 すっかり忘れていたが、内湾がいっぱいになったから外に港を造ったんだっけな。


「そのうち波打ちブロックを造らないとダメだな」


 まあ、それは長いときをかけてやればいい。今は公共事業で成り立っているんだからな。


 海に入り、マグロのような魚を捕まえ、雷で焼いて食っていると、銅鑼の音のような音が耳に届いた。なんだ?


 海岸に立ち、音がしたほうを見ると、数隻の船が見えた。


「……プレアシア号とクレンタラ号がいるな……」


 港の見張りも気がついたようで銅鑼を鳴らした。いつの間に銅鑼なんて設置したんだ?


 湾に向かうと、セオルたちが集まっていた。


「おそらく諸島連合体の船団だと思います。レニーラ伯爵が連れてくると申してましたから」


「ほぉう。よく連れてきたもんだ」


「銅鑼の音から問題はないでしょうが、念のため兵士を用意させます」


 危機管理ができていてなによりである。


 オレは海岸に立ち、内港に入ってくるプレアシア号を見守り、諸島連合体の船団に目を向けた。


 船団は六隻からなり、中規模サイズの船のようだ。


 戦艦ではないが、大砲は積んでいるか。船員の数も多いが、兵士と言う格好ではないな。身なりは汚そうだが。


 上陸には時間をかけて、乗っているヤツらを綺麗にしてから、人数を制限させてから船から降ろさせた。


 オレも近くで見守りたいが、オレがいたんでは諸島連合体の連中が驚く。まずは慣れてからにしたほうがいいだろう。コルモアにはゼルム族やゴゴール族もいるしな。


 ヤトアたちにも諸島連合体を見張れと指示してある。


 姿を隠しながら見守っていると、夜中に海から人間が上がってきた。


 ……命知らずなヤツがいたものだ……。


 千載一遇のチャンス。スパイを潜り込ませるのは常套手段だが、人間を補食する生き物が泳いでいる。オレの毛を束ねて持ってないと襲われる。


 湾内でも油断したら襲われることもたまにあるのに、夜中の海を泳いでくるとか自殺行為でしかない。


「なにか呪霊具でも持っているのか?」


 上陸したヤツは崖を身軽そうに登ってくる。身体能力が高そうだ。


 まあ、オレに気がつかない時点でお察しだ。見習い騎士ワルキューレにも勝てないだろうよ。


「ヤトア。捕まえろ」


「気づいてたのか」


「お前の呪霊は強いからな。すぐわかるよ」


 こいつに隠密行動は不向きだ。まあ、オレだからわかったようなものだけど。


「油断するなよ」


「もちろんだ──」


 茂みの中から飛び出し、すぐに金属が鳴る音がして、すぐに静かになった。


「師匠。こいつレイギヌスのナイフを持っていたぞ」


 刃渡り三十センチくらいのナイフを見せた。


「それで夜の海を泳いでこれたってわけか」


 レイギヌスに慣れすぎてわからなかったよ。


「ロズルに持たせてやれ」


 ヤトアは剣を持っているし、ゴードは槍を使う。無手の戦いをするロズルに持たせることにしよう。


「そいつはコルベトラに運んで尋問しろ。しゃべらないようなら殺しても構わない」


 そう大した情報を持っているとも思えないし、持っていたとしても簡単にゲロったりしないだろう。


「面倒ならミドアに任せてもいいぞ」


「いや、おもしろい剣術を使ったからおれが尋問するよ」


 ヤトアの琴線に触れるほどの剣術ね。


「しばらくコルモアにいるから好きなだけ尋問してこい」


「わかった。なにかおもしろいことがあれば呼んでくれよ」


 ハイハイ。さっさと尋問して戻ってこい。


 謎触手でヤトアを追い払い、諸島連合体の船団を監視した。

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