第186話 レイテラ村

 また冬がやってきた。


 極度の暑さ寒さでなければ肌で体感することはできない。視覚による変化でしか季節を感じないんだよな。


「内陸の冬は海の冬より厳しいのだな」


 熊の毛皮を纏い、焚き火の前で暖を取るレニーラ。人間には厳しいようだ。


「そんなに寒いなら家の中で暖を取れよ」


 なにもオレの寝床で取ることもなかろうに。お前用にと煉瓦造りの家を建ててもらったんだからよ。


「レオガルド様とのおしゃべりは楽しいからな、家の中に閉じ籠ってはいられないよ」


 どちらかと言えばレニーラのおしゃべりを聞かされているってのが正しいと思うんだがな。


 とは言え、レニーラが語ってくれる人間の世界はおもしろい。聞いてて飽きないからオレも楽しいけどな。


「しかし、あの二人は飽きないな。あそこだけ夏のようだ」


 あの二人とはヤトアとロズルのバトルジャンキーどもだ。毎日毎日、一メートルの雪が解けるほどの戦いを繰り広げている。レニーラの言うようにあそこだけ暑苦し夏であった。


「ヤトアはヤトアでいい訓練相手ができて嬉しく、ロズルはロズルで強者に挑むのが楽しいのだろう」


 ロズルは、礼儀正しく妹ラブな男かと思ったのに、戦うことを楽しいと思うサ○ヤ人なタイプだった。人の性質とはよくわからないもんだよ。


 ギギの元でゆっくりと冬を過ごしたいが、カルオンの後押しをするためにも今年の冬はブランボルに滞在したほうがいい。人間とゴゴール族の仲を取り持つためにもだ。


「今日は雪の降りが静かだし、第五要塞を見てくるか。レニーラもいくか?」


「ああ、いこう。そこも見たかったしな」


 見ておもしろいものはないと思うが、雪が降れば橇がスムーズに使える。ついでに薪でも持ってってやろう。


「ヤトア。ロズル。第五要塞にいくか?」


「いく!」


「いきます!」


 と言うので橇に薪を積ませ、籠には塩漬けにした野菜なんかを詰め込んだ。


 電撃隊ライカーズも訓練としていきたいと言うので同行させ、総勢三十人で第五要塞へ向かった。


 境の村には軽く挨拶し、二日かけて第五要塞に到着。レニーラのことはロズルの妹(巫女になったヤツね)に任せ、自分のエサ確保に向かった。


「お、バルバじゃん」


 白いのではなく黒いのや白黒のヤツと、手頃なのが群れで現れてくれた。


「Aランクか。二人の練習用に持っていくか」


 逃げるバルバを雷で行動不能にさせて第五要塞に運んで二人に狩らせた。


 合計四匹を運び、オレは二匹を胃に収めた。なんか味が落ちたな。冬だからか?


 第五要塞に帰ると、総出でバルバを解体しており、久々の肉に活気だっていた。


 祭りのように騒ぐバルバドラの民──いや、新たなレオノール国の民を見守った。


 第五要塞──ってのも味気なないな。そろそろ名前をつけたほうがいいかもしれんな。


「レニーラ。第五要塞を村にするから名前をつけてくれ」


「わたしで構わないのか?」


「構わない。好きなようにつけろ」


 オレだとありきたりな名前しかつけられないし、レニーラがここまできたとう足跡を残してやろう。


「では、レイテラ。美しい場所と言う意味を持つ、わたしの故郷の言葉だ」


「レイテラか。いい響きだ。よし。今日このときよりここはレイテラ村だ」


 オレが認めたことで反論する者はおらず、全会一致で第五要塞はレイテラ村となった。


「久しぶりにラジーでも捕まえにいくか」


 あのピラニアモドキが食いたくなった。


「ヤトア、ロズル、ついてこい」


 この二人ならあの川まで二日ともかからんだろう。オレが雪を払っていけばな。


「前に結構な数を捕まえたってのに、もう増えているんだな」


 休まず走り抜いたお陰で一日で到着。毎日の手合わせでまた力をつけたようで、軽く汗を流すていどで疲れは見せない二人。なんか人としての限界を超えたのだろうか?


「ヤトア。捕まえろ」


「おれもやります」


 冷たいだろう川に二人が入ると、ラジーが群れで集まってきた。あれだけ食われて学習しない魚だ。


 ヤトアは霊操術で。ロズルは気オーラで、ラジーを川から陸へと打ち上げた。


 ゴゴール族に呪霊はなかったが、生命エネルギーみたいなものを持っていた。と言うか、冗談で言ってみたら発現させてしまった。


 誰にでも、ってわけじゃないが、実力があるものは発現させられ、霊操術のように纏うまでできるようになった。


 ……まったく、この世界の生命は謎が多いよ……。


 ほんの三十分で山になるほどラジーを陸に打ち上げる二人。来年また食べられるようにそれで止めておいた。


 橇に積める分以外はオレの胃に収め、レイテラ村に戻った。


 また皆でラジーを捌いて雪の上に並べて冷凍だか乾燥だかをさせた。


「逞しいもんだ」


 この大陸では補食される立場なのに生きるために必死に知恵をつけて、笑えている。もちろん、それはオレがいるからできることなんだが、それでも一生懸命生きている。感心するしかないな。


 子供たちを相手しながら一生懸命生きている者たちを見守った。

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