第165話 生存競争
「またティラノサンダーか」
いや、前のより小さいな。強さもいいところAランク。ヤトアでも倒せそうな小物である。
「あ」
オレと目が合うなり猛ダッシュで逃げ出してしまった。
……基本、ティラノサンダーは攻撃的ではないのか……?
まあ、Aランクはまだ狙われる立場。危機察知能力は鍛えられてるのだろうよ。
逃げるものは追いたくなるのが肉食獣の性。橇を外して逃げ出したティラノサンダーを追い、サクッと狩っていただいた。
血が沸騰するような歓喜はないが、味はなかなか。ベスト5に入れていいだろう。
「うん。美味かった。フジョーが片付けられたらまた狩りにこよう」
それまで肥えろよ~と、再出発した。
空を駆けれるようになったので数日かかった移動も二日で戻ってこれた。
「強くなったところで獣は獣。なんの喜びもないな」
まあ、空を駆けられるようになったのは便利だけどよ。
オレがいない間にドカ雪が降ったのか、洞窟の入口の前が埋まっていた。
風で雪を吹き飛ばして出入りしやすくしてやる。って、違うところから出れるんだったっな。フジョーをなんとかする前に周辺を探索しておくか。
「師匠、早かっ……」
洞窟から出てきたヤトアがオレを見るなり絶句してしまった。どうした?
「……し、師匠なのか? 霊力がまるで違うぞ……」
「違うのか? 上昇したのはわかるが?」
自分で自分の臭いがわからないよう、自分で自分の霊力がどんなものかわからない。強弱ならわかるけどよ。
「師匠、なんだよな?」
「そんなにわからなくなるくらい変わっているのか? 呪法管理人のレミアはオレだと疑わなかったぞ」
強くなったことには気づいてたが。
「変わったなんてもんじゃない。眩しい光を纏っているようだ。並みのモンスターなら見ただけで逃げ出すぞ」
あ、だからティラノサンダーがオレを見るなり逃げたのか。じゃあアイツ、並みじゃなかったんだな。
「それだと狩りに支障が出るな」
いやまあ、オレの脚なら大抵のものは追いつけるが、オレの鼻はそこまで高性能じゃない。本気で隠れられたら探し出せないだろうよ。
「いや、そのナイフ、レイギヌスが中和してる感じだ。でなかったらおれも逃げ出しているところだ」
ミクニールの者たちも逃げ出さないし、コルモアでは誰も逃げ出さなかった。ってことはとAランクに匹敵する霊力がないとわからないものらしいな。
「レイギヌスのナイフにそんな効果があったとはな」
なにが幸いするかわからなないもんだ。
「まあ、それはあとだ。食料を運び込め」
実害があるのはヤトアだけ。なら、放っておいて構わない。ヤトアなら自力で慣れるようにするからな。
食料を運び終わればヤトアやロズからこれまでのことを聞くことにした。
フジョーは冬眠してるのかただの樹となっており、なにか実を生らしているそうだ。
たぶん、撒き餌的なものだろう。草食モンスターを呼び寄せる実を生らさせて、すみつくようになったら狙いにくる肉食モンスターを狩るのだろうよ。
「春にあなる前に一度見にいってみるか」
「そのときはおれもいくからな」
「わかっている。連れていくから安心しろ」
フジョーのことはそれで終わり、洞窟での暮らしを聞かせてもらった。
洞窟の中はオレが想像するより広く、枯れ草や薪を大量に運んだから寒くはないようだ。それどころか温泉が涌いているところがあるそうだ。
「火山があるのか?」
「ここからは見えませんが、大昔に山から火が噴いたそうです」
地震とかないから安心してたが、火山があるとなると噴火したときの対策も考えておかないとダメだろうな。まったく、考えることばかりだぜ。
ロズから聞いたらロゼルからも話を聞く。
男から見る世界と女から見る世界は違う。年齢でも見る世界も違う。いろんな者から話を聞き、ミクニール氏族を理解していった。
また雪が降り出し、外で話を聞くこともできなくなる。
雪を吹き飛ばしながら洞窟の周囲を探ったりしていると、ミゴルがさらに増えていることに気がついた。
「オレには天敵だが、この大陸に取ってフジョーは欠かせない存在なのかもな」
だからと言って狩られてやる義理はない。これは生存競争。食われるのが嫌なら食う立場となれ。生き残ってから先を考えろ、だ。
雪の降りが落ち着いてきた頃、オレらはフジョーの様子を見に近づいた。
いきなり襲いかかってきませんように。
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