第78話 獣神教
「……あれがベッケラーか……」
海竜的なものを想像していたらおもいっきり斜め上をいっていた。
「でっけー白鳥だな!」
少しファンタジーは入っているが、白鳥としか思えないものがたくさん浮いていた。
「と言うか、スワンボートだな!」
サイズ的にも同じくらいで、そう思ったらそうとしか見えなくなってきたわ!
クソ。白鳥なら川か湖にいけよ! 海で魚捕まえてんじゃねーよ! これからスワンボートと呼んでやる!
「死にさらせ!」
陸から五十メートル。こちらが手を出せないと高を括っているのだろう。だが、オレの攻撃範囲内である。
オレの雷は落ちるのではなく駆けるのだよ!
まあ、避雷針的なものがないと五十メートルも駆けたりはしないけどな。
一瞬にして駆けた雷がスワンボートを貫き、黒焦げになった。ありゃ、威力が強すぎたか。
飛び立とうするスワンボートに次の雷を放つ。威力弱めで。
「と言うか、海に落とせばもっと狩れたな」
まあ、雷攻撃ってエネルギーをバカみたいに食う。腹が空いていると威力も落ちるので四匹(黒焦げにしたのはノーカンで)狩って止めておく。
海に入ってスワンボートを咥えて陸に運ぶ。
「お前ら、羽根をむしれ」
見物していた漁師たちに羽根をむしらせ、丸裸になったスワンボートを実食する。まあ、悪くはないないが、バルバのほうが味は濃かったな。
二匹食べ、残りを漁師たちにやった。
「羽根は洗ってセオルに渡せ」
羽毛布団にすれば快眠が得られるだろうよ。
「スワンボートのヤツら、逃げたりしないのか?」
四匹も殺られたのに上空を旋回している。
しばらく眺めていたが、降りてくる気配はない。完全にオレを警戒しているな。だったら他所にいけばいいのによ。
「……あいつら、渡り鳥なのか……?」
季節はもう秋。シベリア的なところから越冬するためにきたにしては数が少ない。と言うか、ここにきて二十年、スワンボートがきた記憶はない。なんでここにきたんだ?
まあ、なんであれ、スワンボートに住み着かれたら漁ができない。悪いがジェノサイドさせてもらいます。
その場から立ち去り、朝方離れた場所から海へと入った。
我には風を操る呪霊あり。顔を覆うように纏えば三十分は潜っていられる。
海底を歩くように進み、スワンボートどもが浮かぶ下へとやってくる。
全力全開。体中から雷を放った。
海面に顔を出すと、スワンボートたちが夢の跡。君たちは美味しくいただいてやるから安らかに眠るがよい。
死体を陸に運び、待機していた漁師たちに解体させた。
「また出たら報告しろ」
羽根を剥いた一匹を咥え、町へと戻った。
「師匠」
広場に向かうと、ヤトアと嫁と思われる女が数人いた。
……こいつはなんの主人公なんだろうな……。
「呼び出しておいてすまなかったな。まずは、これでも食おうか」
スワンボートサイズなので片足だけで人間たちは足りるので、残りはオレが美味しくいただいた。
「すまないが、ゼルム族に剣を教えてもらいたいんだよ」
「わかった。ミナレアにいこう。おれも他種族との戦いを学びたかったからな」
「嫁をもらって丸くなったと思ったが、お前は昔のままだな」
守るものができると人は変わるものだ。まあ、それが当たり前なのだが、ヤトアはまったく変わっていなかった。
「生涯剣を捨てることはない。死ぬそのときまで剣を振るうさ」
信念の男だ。が、ヤトアを駆り立てるもはなんなんだろうな?
「ミナレアに移るなら嫁も連れていけ。オレが運んでやるから」
「いいのか? 獣神の車に乗れるのは巫女だけだろう?」
ん? そんなことになってたの? 知らんかった……。
「弟子の嫁ならオレの家族も同然だ。気にするな」
ついでだからヤトアを獣神の守護剣士と任命し、
「ところで、嫁は何人いるんだ?」
ここには五人の女がいるが。
「……五人だ……」
「ふふ。やっかみが凄そうだな」
まさか五人ともヤトアの嫁とは。男余りのこの状況でよく娶ったものだ。
「ま、まーな。だから、ミナレアに移るのは願ったり叶ったりだ。ミナレアには人間がいるのか?」
「確か、職人の家族が二十人くらいいたと思う」
話したことはないが、昔からいる人間だとか言っていたな。
「三日くらいで用意しろ。その間、コルベトラに顔を出してくるから」
走ればすぐだが、様子を見るために三日くらい滞在するとしよう。
「ミゼル。明日の朝、コルベトラに移動する。早いうちに寝ておけ」
せっかくコルモアまできたのだからコルベトラもミゼルたちに見せておこう。
「わかりました」
「セオル。最近の様子を教えてくれ」
場所を移し、セオルたちと話し合いをする。
「作物も家畜も漁もいまのところ順調か。今年の冬も越えられそうだな」
豊作ではないものの、備蓄できるていどには順調のようだ。
「来年は開墾に力を入れ、用水路を築きたいですな」
「大きな川がないのがキツいな」
井戸を掘れば水は出るらしいが、田畑を潤すような大きな川はない。日照りともなったら簡単に滅亡しそうだ。
「まあ、雨は降りますし、田畑がダメときは牧畜に移りますよ。この大陸の草は栄養があるからよく肥えてくれます」
「そのときは農業村を広げないとな」
あれやこれやと、夜遅くまで話し合いは続いた。
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