第77話 ベッケラー

 毎日、騎士ワルキューレたちに訓練をしていると、運動神経はいいのに槍の扱いが下手なのが何人かいた。


 まあ、刃になる部分が黒曜石だったりモンスターの牙や鱗を加工したもの。鉄なんてないのだから自然と槍や弓になるのだろう。


 鉄がないと言うのは防衛にも関わってくるんだな。未開の地で国を創る大変さを痛感させられるぜ。


 なんて嘆いていてもしょうがない。海の向こうと貿易が始まってからでは剣術は根づかないだろう。やるなら今しかない。


「ヤトアを呼ぶか」


「ミゼル。少し、コルモアにいってくるから組手をやっててくれ。あと、人間が多い町を見せておきたいから二十人ほど選んでくれるか?」


「おれは、いけないですか?」


「いきたいのか?」


「はい。一度、海を見たいと思っていました」


 まあ、コルモアまで三百キロくらいある。マイノカまでだって大変なのに、海までなんて死への旅立ち見たいなものだろうよ。


「そうか。なら、ミゼルが代表になって選別しろ。副組長。オレがいない間の指揮をしろ」


 副組長の二人に任せる。


「ダズ。お前が代理組長をやれ」


 あ、代理を任命したらよかったんだ。考えもしなかったわ。


「わかりました」


 と言うことで二日後、騎士ワルキューレを三十人連れてコルモアへと向かうこととなった。


 今回はヤトアを呼びにいくだけなので、ギギたちはそのまま置いていき、ミバール(綿花)を積んでいくことにした。


 走り込みが効いているのか、マイノカまで五日で到着する。


「ゼル王に会わせる。整列しろ」


 マイノカに入ると、オレを見た見張りが走っていったからすぐにゼルがやってくるだろう。


 しばらくしてゼルと銃士隊がやってきた。


「コルモアまでいく途中に寄った。そのついでに騎士ワルキューレを紹介しておく。王から言葉をくれてやってくれ」


 突然のことだが、王として活動してきたからか、ゼルに慌てた様子もなく、演台へと上がった。


「昔、会ったこともある者がいるな」


「はい。その節は失礼しました」


 代表してミゼルが答えた。年齢的に同じくらいだから会ったこともありそうだな。


「昔のことを問うつもりはない。レオノール国の民となったら同胞。庇護すべき存在である」


「ありがとうございます」


「レオガルド様より騎士ワルキューレのことは聞いている。恥じぬ働きを期待する」


「はっ! 王に恥じぬ働きをいたします!」


 まだ礼儀とか考えてないが、前脚を折ってゼルに頭を下げた。


 服従のポーズじゃなく、敬意のポーズを考えないといかんな。


「今日はマイノカに泊まり、明日の朝に出発する。それまでは休め。ゼル王。騎士ワルキューレたちに酒と食事を用意してくれ」


「ああ、わかった」


 ゼルに任せ、オレはミバールを職人のところに持っていき、狩りへと出かけた。


 もうこの辺にモンスターはおらず、獣も少なくなった。保護区のミゴルも狩りすぎたので、かなり遠くまでいかないと腹を満たせないのだ。


 ……体がデカいのも困りものだぜ……。


 四時間ほど走り、未開の地で蛇のモンスターを狩り、久しぶりに腹一杯食べた。


 食休みしてから明日の分を狩り、マイノカへと戻った。


 戻ると、なにか宴会みたいになっていたが、今の時代はノミュニケーションが大事。大目に見るとしよう。


 上司(?)がいたら場が白けるだろうから巣に戻って寝ることにした。


 んでもって翌日。予想通り二日酔いが大量に出たのでゆっくりさせてやることにした。


「ゼル王は飲まなかったのか?」


 騎士ワルキューレたちが二日酔いの中、ゼルたちはしらふだった。


「酒がそんなにないんでな。騎士ワルキューレを優先させた」


 やはり人口増加で酒の消費も増えているようだ。


「今年は間に合いそうか?」


「なんとか間に合うだろう。足りなくなればゴゴールから融通してもらうさ。今年はコノスノが豊作と報告があったからな」


 コノスノは確か酒になる実だったか? バルバのせいで増えたのか?


「それはなによりだ。来年にもいってみるか」


「そのときは銃士隊も連れてってくれ。銃士隊も育てているからな」


「ああ、わかった。騎士ワルキューレに笑われないよう鍛えておけよ。走り込みだけなら銃士隊以上だぞ」


「では、負けないよう鍛えておこう」


 ニヤリと笑うゼル。凄い自信じゃないか。


 銃士隊の面々も負け気はないとばかりに笑っている。やはりライバルがいると伸びは早いようだ。


 さらに翌日。酒が抜けた騎士ワルキューレたちにムチを入れてコルモアへと駆け、四日で到着した。


「いいぞ、お前ら。銃士隊に負けるなよ」


「もちろんです! レオガルド様に恥はかかせません」


 銃士隊と競争することを説明したら想像以上にやる気を見せた騎士ワルキューレたち。強いだけではなく速く駆けることも名誉なことらしいよ。


 ……競馬でも流行らすか……?


 娯楽も国を豊かにする一つ。今度、ゼルと相談してみよう?


「レオガルド様。ようこそいらっしゃいました」


 ここでも見張りが走ったようで、セオルたちが迎えてくれた。


「大勢できて住まないが、こいつらの世話を頼む。人間たちの暮らしを見せてやってくれ。ミゼル。騎士ワルキューレに恥じぬ行動をしろよ。未開の獣ではないんだからな」


 ここにくるまで騎士ワルキューレの誇りを教え込んだが、人間からの目に堪えられるかはわからない。やらせてみてから考えよう。


「わかっております」


 右の足で地を叩き、拳を胸に当てて敬礼した。


「レオガルド様が教えたので?」


「わかるか?」


「まあ、なんだかんだと十年経ちますからな」


 もうそんなに経ってたか。時が過ぎるのは早いものだ。


「ところで、ヤトアはどこにいるか知っているか? こいつらに剣を教えようと思ってな」


「町にいるとは思いますが、どこにいるかまではわかりません。探して呼んできます」


「ゆっくりでいい。狩りをしてくるんでな」


「それなら、近海に住みついたベッケラーを退治してもらってよろしいでしょうか? 住みつかれて漁に支障が出ているのです」


 ベッケラー? なんじゃそりゃ?

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