第49話 戦争2

 二番艦が入ってきた。


 通信ができず、視界も塞がれていては飛んで火に入る夏の虫、である。


 風を受け、湾に入るときに帆を畳むが、ブレーキがあるわけでない戦艦は急には止まれないし、旋回できるほどの広さもない。一番艦と同じくオレが乗り込み、気絶するくらいの放電をかましてやった。


 すぐにヤトアが乗り込み、縄梯子を垂らした。


 オレは二番艦から飛び降り、制圧するのを眺める。


「……マイアナは、レイギヌスを持ってないのか……?」


 塩作りのときに襲ってきた戦艦にもレイギヌスはなく、一番艦、二番艦からもレイギヌスの気配はなかった。


「まあ、貴重なものですからな、今回は数で仕掛けてきたのでしょう」


 オレの呟きにセオルが答えてくれた。


「マイアナの国力で戦艦五隻を出すのは易いことなのか?」


「よくはわかりませんが、帝国では皇帝の認証がなければ出せない数ですな」


 本国を守り、地方に睨みを利かせ、敵国を牽制するとなると、戦艦の数は百隻はないと無理か? 


 そこから五隻の戦艦と移民団を乗せた船が十二隻。国家プロジェクトなら凄い予算を投入しているはず。そうなれば毎年送り込んでくるのは不可能だろうな。


「予算枯渇して採算に合わないと思ってくれたらいいんだがな」


「無理でしょうな。新大陸熱はそう簡単には静まりませんし、二大国が狙ってますから」


 だよな~。人間の特性を考えても止めるわけがない。国が滅びるまでやるだろうよ。


 気分は最悪だが、二番艦は二十分もしないで落とすことができた。


「次はきてるか?」


「いえ、様子を見ているようです!」


 二隻も突入させれば充分と思っていることか。


「次がくる前に乗員を降ろして収容所に連れていけ」


 まあ、収容所なんて立派なものではなく、開墾しているところに木の柵を覆っただけのところなんだがな。


「一応、なにか燃やして誤魔化しておけ」


 なにも反応がないとマイアナ側に怪しまれるし、まだ油断させておきたい。人の手が上がっていれば誤魔化せるだろう。


 戦艦から出した不要なものを混ぜて燃やすと、黒い煙がモクモクと天へと昇っていく。


「重傷者は殺して埋めてしまえ。変な病気を広められても困るしな」


 人間だったら言えないことだろうが、獣になって二十数年。敵には容赦なく言えています。


 なにか技術があるなら生かしてもいいが、基本、マイアナの兵士はいらない。レオノール国のために使い潰すつもりでいたんだが、なにかいろんな人種が混ざってないか?


 ヤトアのような東洋系もいるば中東系もいる。どうなってるんだ?


「たぶん、元奴隷だった者の子孫だった者かと思います。武功を立てると解放されて市民となると聞いたことがあります」


 また面倒な社会構造となってんな。


「やっと解放されてまた捕まってれば世話ないな」


 先祖が立てた武功を子孫が潰す。先祖も草葉の陰から泣いてることだろうよ。


 手首に縄をかけられて引き連れられていく捕虜たちは、これからの悲運を思って項垂れている。


 同情するつもりはない。状況が違っていればこちらが手首に縄をかけられていたんだからな。


「奴隷にするので?」


「奴隷にはしない。だが、罪人として扱う」


 他人のものを奪おうとして襲ってきたのだからマイアナの連中は盗人だ。しかも、問答無用で大砲を撃ってきた。殺意をもって襲ってきたとなれば強盗だ。討ち取られようが死罪になろうが捕まえた側の法で裁くだけである。


「奴隷など問題を生み出すだけ。法治国家なら罪人は法の裁きを与える」


 まだ法治国家にもなってないが、掟は馴染ませておいたほうがいいだろうよ。


「三番艦が動き出しました!」


 もうか。あと一時間は様子見してて欲しかったんだがな。


「ヤトア、まだ動けるか?」


 さすがに二、三時間も霊装術を使いぱなしだと疲労が出ている。今も水分補給しながら息を切らしているよ。


「も、問題ない」


 問題ありありだが、ヤトアのやる気を削ぐのも悪い。やれるだけやったらいいさ。それで死ぬとしてもヤトアは満足だろうからな。


「三番艦、きます!」


 一番艦二番艦と同じく入ってきた──が、慎重なヤツが艦長のようで甲板に銃を構える兵士を並べていた。


 だが、空中に飛び出していたオレのほうが速く、甲板にいる兵士に向けて雷を放っていた。


 一瞬にして黒焦げになる兵士たちを吹き飛ばしながら甲板に着艦。帆柱などを爪で切り裂いてやった。この戦艦はもう使い物にならないからな。


 少し遅れながらヤトアが飛び込んできて、艦内へと入っていった。


 縄梯子を垂らさないので、小舟に乗った兵士が鉤爪を使って乗り込んできた。


「砂浜に上げる! 気をつけろ!」


 そう叫び、三番艦から降りて舵を失った三番艦を風で砂浜に上げてやった。


 すぐに兵士たちが乗り込み、生き残った者を降ろさせ、主要な物を降ろし出した。


「マイアナ船団の一部が上陸しようと海岸に向かっています!」


 湾に入れないとわかっているから、一部を犠牲にして上陸させようって腹かな?


「ゼル王! そちらは任せる。抵抗するなら殺せ! 無断で上陸しようとする者も殺せ! 罪人には罪人に相応しい扱いをしろ!」


「わかった! いくぞ!」


 やっと出番だとばかりに武装したゼルム族の野郎どもが駆けていった。


「セオル。怪我人の手当てと休息をさせろ。見張りには逆らう者は殺していいと伝えろ。優先させるべきはレオノール国側の命だ!」


 わざと大声で言い放つ。レオノール国のヤツらを大事にしていることを示し、愛国心を持たせるためにな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る