第42話 家畜化計画

 フレンズな獣人を増援してバルバの卵を集めまくった。


 まあ、バルバの行動範囲が広すぎて五日間で三十も集められなかったが、試しとしてはこんなもんでいいだろう。


 卵があった状況を真似て孵化を待つ。その間、ゼルたちにバルバの偵察に出てもらい、オレはフレンズな獣人の男たちを十人くらい連れて湿地帯に向かった。


 オレがきたことでミドが逃げていった。


「お前たちは、ミドを食うのが?」


「いえ、狩るのが大変ですし、硬くて黒刃が通らないんです」


 黒曜石が通らないか。元の世界のワニも銃弾が効かなかったって話もある。ファンタジーなワニなら不思議でもないか。 


「少し離れていろ」


 フレンズな獣人たちを三十メートルくらいさがらせてプチサンダーを湿地帯に放った。


 大抵の獣なら感電死するレベルだが、ゴムみたいな皮膚を持つニシキヘビ級のヤツメウナギに効くかわからん。まず小さいのから試してみる。


「お、出てきた」


 前回のより三分の一くらいのが数匹、泥の中から出てきた。


「水辺に住むミロアーか」


 バルバが食うミロアーってこれか。ってか、ミロアーは複数いるのか?


「お前ら、食うなら獲っていいぞ」


 オレはいいかな? そんなに食いたいとは思わんしな。


「いえ、我らも食べません」


「そうか。ああ言うのは若いのなら捌き方、調理法で旨くなるもんだがな」


 どうしようと獣の舌ではどうしようもないがな。


 触手を使って水棲ミロアーをつかんで遠くに投げ捨てた。無駄な殺生はオレの主義ではないからな。


「よし、お前ら。第五要塞まで水路を引くぞ」


 鎧竜の鱗で作ったスコップで水路を掘らした。


 力が強いだけに人間の三倍は速く掘っていき、昼までに三十メートルくらい進んでしまった。


「レオガルド様。こんなことして水が要塞までいくんですか?」


 昼の休憩をしてると、フレンズな獣人の一人がそんなことを尋ねてきた。


「高低差があるから水が枯れない限り流れていくはずだ」


「こうていさ?」


 元の世界のヤツがこの状況を見てたら普通にしゃべっているように見えるかも知れないが、フレンズな獣人だけじゃなくゼルム族も表現豊かにしゃべっているわけじゃない。オレの脳内でそんなふうにしゃべっていると変換してるまで。本当はそんなに言葉は多くないのですよ。


「水は高いところから低いところへ流れていく。それはわかるな?」


「え、ええ、まあ」


 当たり前すぎてそれ以上は考えない。疑問に思わない。獣の思考で生きている。


 今日を生きるので精一杯のところでは無理ないが、知識や知恵を身につけさせると言うのはなかなか苦労であった。


 だが、不思議なもので、どんな種族にも好奇心旺盛で、知的探究心を持つヤツはいるものだ。オレに尋ねてきた男も知的好奇心が強く、休憩の間にいろいろ尋ねてきた。


「世の中はおもしろいですな!」


 好きこそ物の上手なれ。と諺があるが、好きなことには脳細胞が活発になり、スポンジが水を吸うように吸収していき、四則計算まで覚えてしまった。オレはなにを覚醒させてしまったんだ……?


「知識を求めるならマイノカの町にこい。モドーもいるしな」


 フレンズな獣人にも知識層が増えてくれればやり易くなるはずだ。


「はい! 是非!」


 一応、ドーガにも伝えたらあっさりと許可が出た。どうやら尋ねてきた男──ドーマはフレンズな獣人の中では弱い地位にいる感じらしい。身体能力は人間の三倍はあるのにな。


 湿地帯から二キロまで水路を引くと、平原は初夏な感じになってきた。


 オレも水路造りに付き合ってられないので、バルバ探しに出たり、フレンズな獣人の村にいって女たちの様子を見たり、マイノカの町へと戻ったりと、獣なのに忙しい日々である。


 季節が夏に移り変わり、第五要塞にやってきたらバルバの雛が五匹、ピーチクパーチク騒いでいた。


「あーすっかり忘れていたわ」


 ってか、よく孵化したもんだ。モンスターは卵から生命力に溢れてんだな。


「産まれて何日目だ?」


「十四日くらいです」


 それでもうフレンズな獣人と同じくらいになってるとか、成長速度がハンパねーな。


「なに食っているんだ?」


「水路にいたミロアーを食べさせてます」


 あ、やっぱり水路にまでくるか。そうじゃないかとは思ってたが、まさかバルバのエサになるとまでは予想できなかったよ。


「バルバがこんなに懐くなんて思いませんでした」


 デカい嘴をフレンズな獣人に嬉しそうに擦りつけている。


「バルバにも刷り込みがあるのか」


 鳥だからか? 


「すりこみ、とは?」


「産まれて初めて見た者を親と思う習性のことだ」


 まだ幼いからか、フレンズな獣人に慣れてるからかはわからんが、バルバの雛はオレを怖がったりしない。習性とはよくわからんな。


「もし、慣れさせることができたらバルバの背に乗れるようにしたら移動も楽になると思うぞ」


 リアルチョコボとか、ちょっとロマンを感じるな。オレが跨がれないのは悲しいけど……。


「……バルバに、ですか……」


「ああ。バルバの脚なら村から第五要塞まで一日でこれるんじゃないか? 橇をつけたら大量に物も運べるぞ」


 まあ、その苦労はフレンズな獣人たちがするんだが、飼い慣らせれたらこちらにも回してもらおう。


「急ぐ必要はない。失敗したらまたバルバの巣から卵を盗んできたらいいんだからな」


 そうすればバルバの数も減り、こちらは飼い慣らせれたバルバが増える。家畜化計画、スタートである。


 フレンズな獣人たちも乗り気なようで、バルバを増やす話を話し始めた。


 どうやらバルバ退治は秋前には終わりそうだな。


 ギギと過ごせる時間が増えるなと、またバルバ探しに出かけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る