第40話 ただの獣とは違うんだよ

 拠点兼避難所──改め要塞と命名。できた順に第一、第二とつけて、今、オレたちは第五要塞を造っている。


 オレの脚なら一時間くらいの距離だが、ゴゴールの脚では二日半の距離にあり、川も近い。湿地体もあり、そこにワニっぽいものもいた。最前線基地としていいかもな。


 あるていで暮らせるまでできたらゼルたちを連れて偵察に出た。


 ヤトアもつれていけと騒いだが、オレたちについてこれないのだからゴゴールたちとワニ狩りにいかせたよ。


 ゼルたちの脚に合わせて二時間ほど走ると、バルバの群れを発見した。


 数は六。なにか地面を嘴で突っ突いている。


 今さらだが、バルバってなにを食うんだ? 肉食とは聞いてだが。


「ミロアーを食っているみたいですね」


 単眼鏡を覗く男が答えた。ミロアー? なんじゃそりゃ?


「長くて白い蟲です。ゴゴールの連中が言ってました」


 腕を広げ、このくらいの長さだと教えてくれた。ミミズか?


「ゼル。お前らが狩ってみろ」


 今回、銃は持ってこなかった。バルバ、結構鼻が敏感で火薬の臭いがすると逃げるのだ。


 ……去年、バンバン撃ったから、覚えられたんだろうな……。


「わかった。やるぞ」


 ゼルの号令で茂みから飛び出すと、バルバは逃げ出した。


 走る速さはゼルム族が速いが、持久力はバルバが勝つ。百メートルも離れてたら追いつないだろうが、狩りは集団戦。追う役、待ち構える役と、やりようはいくらでもある。一時間の追い駆けっこで一匹を仕留めた。


「ご苦労さん。よくやったな」


 十人で一匹を狩る。これが日々の暮らしの狩りなら充分な成果だろうが、平原からバルバを追いやるなら全然おつかないだろうよ。


 夏までバルバをちまちま狩っていると、ニワトリの化け物がお出座ししてきた。


「デカいな。ボスか?」


 バルバの一回りデカかったが、現れたのは二回りデカい。形も色もSランク以上だと語っている。こりゃ、激戦になりそうだ。


「お前らは下がっていろ。あれは……強い……」


 SSSなオレの本能をピリピリさせている。強い上になにか特殊能力を持っている感じだ。


「レオガルド様が警戒するほどか?」


「ああ。だから近づくな。いつでも逃げられる距離にいろ」


 あいつが本気を出したら百キロくらい走れそうだ。


 ゼルたちが下がったことでニワトリの化け物がこちらに気がついた。


 オレもゆっくりと、こちらが格上だと威風堂々とニワトリの化け物へと向かっていく。


 喉の奥で唸るようにオレを威嚇し、鶏冠じゃなく赤い二本の角がさらに赤くなり、熱を帯びたかのように空気を揺らめかせていた。


 ……火炎系か……。


 火を吐くモンスターはよくいるが、口から吐く系ではないな。


 二十メートルほど距離を置き、右回りをしながらニワトリの化け物の出方を見る。


 唸るニワトリの化け物。あちらもオレの強さを感じ取れるようで迂闊に近づいてはこない。


 雷をパリパリと見せてみる──と、ニワトリの化け物の周囲に火の玉がいくつも生まれた。


 発火系か。となれば一ヶ所に止まるのは危険だな。


 と、駆け出した瞬間、チリチリと空気が熱を帯び、背後で炎が爆発した。やはり発火系のモンスターか!


「さすがファンタジーのモンスターだ」


 だが、そこまで極めている感じではないな。


 目で追っているところからして、目で見て目標を定めてから発火能力を使っている、ってところだろう。


 逃げ回るスピードを落とし、ニワトリの化け物がオレを捕らえて発火するまでの時間を探っていく。


 睨んでから約三秒か。知らないモンスターなら脅威だろうが、オレの脚なら捕らえられることはない。


 スピードで翻弄し、ふいに近づいたら、周囲に生み出した火の玉を投げつけてきた。


 火の玉をわざと受ける。


 赤色からして六百度から八百度くらいだろう。なら、オレの毛は燃えたりしない。火を吐くゴリラでも焦げたりしなかったからな。


 火の玉を受けるが、熱いと感じるくらい。何分も食らうのでなければ問題はない。


 威嚇用なのか、ニワトリの化け物は次々と火の玉を作り出してぶつけてくる。


 さすがに熱くなってくるが、どれだけ発揮できるかを調べるために我慢して受け止めた。


 百五十ほど数えていたら火の玉が消え、ニワトリの化け物が息切れを起こしてきた。


 ……だいたい三分くらいが限界のようだ……。


「知能がイルカくらいあったらもっと戦い方を考えられたんだろうな」


 きっと何百回と戦ってきたのだろうが、オレは頭を使って戦う獣。ただ強さだけで生き残ってきた獣とは違うんだよ。


 死角から風の塊をぶつけてやる。


 弱いのをぶつけたので倒れることはないが、体勢を崩され、オレから意識を外したのがわかった。


 さらに風の塊を放ち、ジャブを食らわせる。


 人間くらいなら軽く吹き飛ばす威力のを何十と放つと、ニワトリの化け物が崩れた。


「打たれ弱いな、お前」


 オレと変わらないサイズなのに、あのくらいで倒れるとか強度なさすぎだ。


 だが、油断はせず風の刃を放つが、防刃性があるのか、なかなか斬り刻めない。


 ならばと、プチサンダーを放つ。


 人間なら動けなくなる威力だが、動きを止めるくらいに効果があった。


「もういいか」


 これ以上はなぶり殺しだ。オレの趣味ではない。


 ゴアを倒せるくらいの雷を放つと、完全に動きを止めた。


 警戒しながら近づき、反撃される前にニワトリの化け物の頭を踏み潰した。


「これも自然の摂理。お前が弱かっただけだ」


 食うか食われるか。次回も食う立場でいられるよう誠意努力しよう。

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