第27話 平原

 レオノール村を発って五日。まあ、順調にゴゴールのテリトリーと言うかいくつかある村の一つに到着した。


 この村だけを見ればゴゴールたちは原始的な暮らしをしているようだ。


 ただ、胸や下半身を隠しており、意外にも身綺麗にしている。よくアマゾンの奥地にいるような鼻に棒を刺したり、刺青をしたりはなく、人間の文化が入った感じがする。


 ……ゼルム族を見て真似してるのかな……?


 ミレナーの民は、人間の文明文化を受け入れたため、上半身は布の肌着をつけ、革のジャケット的なものを着ている。


 下半身も鎧竜の鱗で作った鎧(?)を纏っている。ゴゴールでも文明文化の差は理解できるだろうよ。


「ゲルボアルよ、よくきてくれた。感謝する」


 長老的な老人が出てきた。あ、オレ、ゲルボアルって獣だったっけ。


「気にするな。利があってきたのだからな。感謝は石炭で返してくれたらいい」


 報酬の交渉はゼルに任せてある。他種族との交渉を経験させたいからな。


「わかっている。まずは旅の疲れを落としてくだされ」


 オレはまったく疲れてないが、ゼルたちは疲れているので休ませる。


「周辺を見たい。誰か案内してくれ」


 そう言うと、面構えのいい男たちが集められた。


「オレはレオガルドだ」


「おれはドーガ。槍のドーガだ」


 なんか中二病みたいなヤツだな。見た目は任侠映画に出てきそうなのに。


「ここにもバルバは出るのか?」


「いや、平原に出る」


 平原? へ~あるんだ。益々ハンティングなワールドだな。


「そこまでは遠いのか?」


「半日のところにある」


 ゴゴールの脚でとなると十数キロか? まあ、オレなら数分ってところだろうけど。


「ここは安全なのか? これと言った柵もないが?」


 木と葉で組んだ家が主だが、土壁の家もある。ミナレアの民のところは柵で囲っていた。


「バルバは深くは入ってこない」


 あー体デカいしな。こんな木々が密集したところには入ってこないか。


 とりあえず、ドーガに周辺を案内してもらう。


「なるほど。縄張り意識が高いだけはあるな」


 小動物の気配はするが、肉食獣の気配はまるでない。ちょくちょくゴゴールが警戒してるのが見えた。


「草原はどっちだ?」


「いくのか?」


「腹が減ったんでな、バルバを食ってくる」


 この周辺にオレの胃を満たすような獣はいない。どうせ遠くにいくならバルバを食ったほうが数が減っていいだろう。


「案内する」


 と言うと駆け出すドーガたち。お前の脚で半日なら着くの夜になるんじゃないのか? 野宿になるぞ?


 まあ、野宿くらい問題ないのだろうと理解して、ドーガたちのあとを追った。


 夕方くらいに草原へと到着。なかなか広大であった。


「ゴゴールにとってここは重要な地なのか?」


 これと言って重要そうなものは見てとれないが。


「重要だ。我らはミノドを狩って生きているのだからな」


 ミノド? なんじゃそりゃ?


 あまり口数が少ない高い男で、説明されていまいちピンとこなかったが、バルバによって逃げ出したことはわかった。


「狩ってくる」


 遥か先にいるバルバの群れへと向かって駆け出した。


 気配察知に優れているなのか、半分もいかないうちに気づかれてしまった。だが、オレの脚は疾風迅雷。難なく距離を縮め、雷を放って数匹を倒した。


「五匹か。やはり威力がいまいちだな」


 これまで複数と対峙したことないから同時攻撃や広範囲攻撃が弱いのだ。


 一匹を美味しくいただいていると、ドーガたちがやってきた。


「お前たちも食えるなら食え」


 食料持参できてなかったし、肉食なみたいだからバルバも食えんだろう。ってか、生肉で食うのか?


 ドーガたちは視線を飛ばし合っていたが、しばらくしてバルバを解体し始めた。


 一匹を平らげ周囲を見回すと、遠くにバルバがいて、こちらを見ていた。逃げんのか?


「バルバは好戦的なのか?」


「ああ。相手が動かなくなるまで攻撃してくる。集団でな」


 ゾウくらいある体で襲われたらさすがの獣人でも敵わないか。嘴も硬く、脚も強靭だしな。


「マスケット銃じゃ厳しいか?」


 当たりどころがよければ倒せるか? 体は毛で塞がれそうだが、頭や脚なら当たっただけで致命傷になるだろう。


 ドーガたちが食べれる部分だけ切り取り、森へと運び出した。


「バルバは夜も動くのか?」


「いや、夜は動かない。水辺にある巣へと戻る」


 鳥目、だからか?


 まあ、夜は動かないのなら全部運べるな。放置するのはもったいないからな。


 森へと運び終わる頃にはすっかり暗くなり、やはりここで野宿することとなった。


「火を使うのだな」


 なんと火打ち石で火を起こすドーガたち。


「レオガルドは火は怖くないのか?」


 あ、この世界の獣も火を怖がるんだ。


「怖くはないな。どちらかと言えば見るのは好きだ」


 焚き火を見てるとなんか落ち着くよな。冬の焚き火とかマジ最高だぜ。


「……変わっているのだな……」


「そうだな。オレは変わっているな」


 モンスターがいてケンタウロスがいて、ゴゴールがいる世界で自分が変わっているとか気にもならんよ。前世の記憶がある者としたらこの世界が変なんだからな。


 切り分けたバルバ肉に塩を振り、火で焼いて食べるドーガたち。獣人でも塩は必要なんだ。


「旨いか?」


「バルバは厄介だが、肉は旨い」


 味覚はゼルム族や人間とそう変わらんらしいな。


「酒が欲しくなるな」


「どんな酒だ?」


「夏に平原で採れるコノスノの実から作る酒だ。我らにとって重要なものだ」


 果樹酒か?


「バルバが平原に住み着いてから採ることが難しくなった」


 まあ、あんなのがいたら命がいくつあっても足りないわな。


「なに、すぐに狩り尽くす。酒ができたら交換してくれ」


 人が増えて酒の消費量も増えた。酒が手に入るなら飲兵衛たちも喜ぶだろうよ。


「なら、鎧竜の鱗で作った槍と交換してもらえるか?」


「構わんよ。酒ができたら持ってくるといい」


 オレの言葉に沸き立つ男たち。こいつらを文明人にするのは骨が折れそうだな……。

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