第24話 賢き者

 ベイガー族のことも片付いてないのにフレンズな獣人までくるとか、オレはどんだけ運が悪いんだよ。一難も去ってないのにまた一難とか、泣けてくるぜ……。


「力を貸せとは?」


 レオノール村にやってきたフレンズな獣人たちは、身なりからして戦士のたぐいだろう。なら、戦い関係か。なにと戦うかはわからんけど。


「バルバが増えすぎて困っております。レオガルド様のお力をお借りしたいのです」


 まあ、そんなところだろうな。オレに頼むことなんて。


「オレにタダ働きをしろと? お前らのために?」


 少し威圧的に問い質した。力がすべてなこの大森林ではナメられたらお仕舞いだからな。


「い、いえ、そんなつもりはありません! こ、これを納めさせていただきます」


 と、黒い石を出した。なんだ、それ?


「以前、人間に聞きました。人間はこの黒い石を望んでいると」


 人間が望む? 鉄鉱石か?


 フレンズな獣人が出した黒いを爪で突っ突いてみる。柔らかいな。鉄鉱石じゃなく石炭か?


「ギギ。炭焼きしているヤツを連れてきてくれ」


 戦艦に乗っていた中に炭焼き職人の息子がいた。そいつなら石炭を知っているかもしれん。知らなくても石炭の情報を持っているかもしれんしな。


「石炭ですね、これ」


 あっさりと石炭と断言した。


「元いたところでは石炭を使っていたのか?」


「はい。鍛冶屋では石炭を使ってました」


 まあ、大砲を造るんだから石炭を使っていてないと生産するのも無理か。


「石炭を使えるヤツはいるか?」


「コルモアにいると思います。新大陸に渡るときは鍛冶屋は必ず連れてきますから」


 へー。ちゃんと考えて渡ってきてたんだ。侮ってたわ。


「石炭はあったほうがいいか?」


 まだ産業革命にはほど遠いと思うが。


「そうですね。砲弾とか加工するとなるとあったほうはいいと思います。炭では限界がありますから」


 そう、だな。今のところ炭で足りてるが、炭は森林破壊に繋がる。この先を考えるなら石炭はあったほうがいいか。また船がこないとも限らんしな。


「よし。いいだろう。お前らに力を貸そう。その黒い石を樽四十個分──と言うか、お前ら、数は数えられるか?」


 最初の頃、ゼルム族でも十まで数えれるヤツは数人しかいなかった。今では三桁の足し算や引き算、賢い子は九九を覚えてたよ。


「モドー」


 交渉役の男が若い男を呼んだ。


「この者はモドー。数に強い男です」


 確かに賢そうな顔つきをしている。どんな種族でも賢いヤツは必ずいるから不思議だよな。


「なら、賢い者を何人かレオノールに住まわせろ。お前らとの繋ぎにするから」


 交流するならこちらの考えを教えて、フレンズな獣人たちに知らしめる必要がある。大使館的なものを置くのがいいだろう。


「女も何人か置けよ。女には女にしかわからんこともあるからな」


 置くならバランスよく置いたほうがいい。男ばかりだと考えが片寄るからな。


「ギギ。ゼル。こいつらが住めるよう取り計ってやれ」


「わかりました。すぐに用意します」


「わかった」


 フレンズな獣人と敵対していたのに、人間やベイガー族とかかわるようになったからか、ゼルも思考が柔軟になった。成長するときは驚くほど成長するもんだぜ。


「お前らとゼルム族の関係は聞いている。そこには深い恨みもあることも理解している。だが、いつまでもそうではゼルム族に負けるぞ。こちらには知識を持つ人間がいて力の強いベイガー族がいる。三つの種族が力を合わせて大きくなっている。お前らとの差は日に日に増しているのだ。自分らが獣ではないと言うなら今後をよく考えろ」


 タダの獣のままではこちらが困る。せめて話し合いができるていどまでには成長して欲しいぜ。


「用意が整うまで待っているか、お前らの村に帰っていろ。案内は一人いればいい」


 フレンズな獣人も走るのは速いだろうが、時速にしたら六十キロ。ゼルム族は八十キロ。ただ、それは走りやすいところでの話であり、敵がいない場合だ。通常なら三十キロくらいで、周辺を警戒しなくてはならない。フレンズな獣人も一日三、四十キロ移動するのが精々だろうよ。


「お前らの臭いを追う。仲間にはオレがいくことを伝えておけ」


 そう指示を出してフレンズな獣人たちを帰らせた。


「……石炭か……」


 もしかしてこの大陸、地下資源が豊富だったりするのか? そして、人間たちはそれを知っているとか? だから危険な海を渡ってくるのか? 


 そうだったら厄介だな。欲にまみれた人間はどんな危険があろうと止めたりはしない。元人間なだけに未来が想像できて胃が痛くなるぜ……。


「レオガルド様は、物知りですね」


 モドーが冷静で知的な目をオレに向けてくる。


「いろいろ知識を持って生まれたからな。お前も物知りそうじゃないか。石炭を選んだの、お前だろう?」


 他のフレンズな獣人に考えられるとは思えない。思考が脳筋な感じだからな。


「わかりますか?」


「目と顔つき、しゃべり方であるていどはわかる。仲間内では結構苦労しているだろう?」


 力がすべてな世界では多少賢いていどでは認められないだろうし、相当賢いなら異端視される。想像しただけで可哀想になってくるよ。


「……はい。苦労しました……」


「これからはお前のような知識と知恵がある者が重要になる。人間の知恵と知識は遥か先をいく。お前らを何十回と殺せる武器を持っている。成長しなければ食われるだけだぞ」


 そう言ってできるなら苦労はしないが、今からでも意識改革してないと滅びの未来しかない。死にたくないなら成長しろ、だ。


「学べ。それが生き残る最善の手だ」


 使える人材は今から唾をつけておく。すべてはギギのために、だ。

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