第23話 フレンズな獣人
「レオガルド様?」
「あ、いや、なんでもない」
フレンズな獣人たちに驚いて素を出してしまった。イカンイカン。オレの威厳が崩れる。
「あれは、放っておいていいのか?」
フレンズな獣人は十数人いて、バルバは四匹。今のところ戦いは均衡しているが、体力的にバルバが勝っている。いずれ均衡は崩れるだろうと野生の勘が言っている。
「手出しするとよけいに拗れます。放っておくのがいいでしょう」
それがフレンズな獣人との付き合いならそうするしかないか。あちらになんの情もないしな。
戦いを見ていたら、自然と目がバルバに向いていた。
……なんか、旨そう……。
これまでモンスターを見て旨そうと思ったことはなかったのに、バルバはなぜか見てるだけで涎が出てきた。
「バルバを食ったことはあるか?」
「え? いや、ないです。捕まえるのが大変なので」
確かに三倍もあるバルバを倒すなら他を狙ったほうがいいか。ゼルム族はどちらかと言えば菜食なほうだしな。
「じゃあ、食ってみるか」
と、オレの食欲を感じ取ったのか、バルバたちが跳ね上がり、こちらを向いた。勘がいい!
だが、バルバたちが振り向いたときには飛び出している。どんなに速い脚を持っていようが射程圏内。逃しはせんよ!
一瞬で逃げ出すバルバたち。だが、速度が乗ったオレはあっと言う間に距離を詰め、一匹を前足で押し潰し、その反動で一回転。風の刃を放ち、二匹の脚を切断してやった。
一匹は逃してしまったが、食えるだけを狩るのがインテリジェンスビーストのマナーである。
「では、味見といきますか」
潰したバルバにガブリンチョ。う、旨いやん!
これまで旨いと感じたモンスターはいたが、バルバは三段階上だ。甘みがある肉なんて初めてだぜ!
あまりの旨さに一匹をペロリ。腹ではなく気持ちが満たされたのは生まれて初めてだぜ!
獣の体では咥えて運ぶしかできないので、ゼルム族を呼んで一匹を解体させた。
「お前らの獲物を奪って悪かったな。これで許してくれ」
こちらを見るフレンズな獣人たちに気がつき、持って帰ろうとしたバルバを咥えて放り投げてやる。
それでお前らには興味はないとゼルム族の元へいき、解体するのを眺め、終わったら村へと帰った。
肉はあまり食わないとは言え、まったく食わないと言うことはない。中には肉好きな者もいて、バルバは喜ばれた。
「ギギ。どうだった? 布は手に入れられたか?」
村の外れにある広場的なところを借り、村でのことをたずねた。
「はい。たくさん手に入れられました。これで新しい肌着が作れます」
それはなにより。きた甲斐があるってものだ。
村の様子も尋ねると、やはりゴゴールのことが大半だったらしい。
「やはり、違う種族が一緒に暮らすって難しいんですね……」
「そうだな。育った環境が違えば考え方も違ってくる。お互いを知る前に戦いをするから憎しみ合う。手っ取り早く仲良くさせるには強い者が従わせるしかない」
もちろん、それだけでは無理だ。種族としての尊厳を認めたり、考え方を理解したりと、胃が痛くなるような気遣いも必要だ。前世の記憶がなければオレは獣になっていただろうよ。
「争わないようにはできないんでしょうか?」
「ないとは言わないが、難しいだろうな」
もうちょっと利に聡いならやりようはあるが、まだ感情が支配している現状ではやれることはないに等しい。強大な敵が現れて共闘せざるをえない状況とかになればチャンスはあるだろうがな。
「今は、レオノール国として少しずつ他の種と理解し合っていくしかないない。それが争わないようにする最善の方法だ」
こればかりは一朝一夕にはならない。少しずつ積み重ねていかなくてはならないのだ。
「これからも布を交換することを約束して家に帰るとしよう」
ミナレアの民ともゆっくりと交流して、お互いを知っていくしかない──と思ったのだが、そうならないのが世の常だ。問題を起こさないようにしてもあちらから問題はやってくるものだ。
ミナレアの民と一緒に暮らしている人間がやってきて、レオノール村へと連れていってくれと言ってきたのだ。
「ミナレアの民と話はつけているのか?」
「…………」
どうやらつけてないようだ。こちら任せかよ……。
知るかボケ! と突き放したいところだが、運がいいのか悪いのか、ミナレアの民といる人間は女が多かった。
レオノール村は男が多い。つまり、嫁不足状態だ。渡りに船のようだが、ミナレアの民の村では人間も働き手だ。抜けたら生産は落ちると言うもの。手放すわけがない。
「どうしましょう?」
今この時だけとんちの神よ、オレに降臨してください! と願ったところで降臨するわけもなし。妥協案を示すしかなかった。
「こちらから男を十人出す。だからそちらも女十人を出せ」
ミナレアの民の長老たちを加えて話し合いをし、それならと納得してもらった。
だが、それから大変だ。まず、女二人を背に乗せレオノール村へと走り、ミナレアの民のところに移ってもいいと言う野郎を二人連れて戻る。
それを五回もやればさすがのオレもヘトヘトだ。交換を終えたら一月は食っちゃ寝を繰り返した。
季節は夏になり、そろそろ塩を作りをしようかと考えていたらまた問題がやってきた。
フレンズな獣人たちが団体でやってきたのだ。
「どうか我々にお力をお貸しくださいませ」
それはオレが言いたいよ。オレは問題解決請負人じゃねーんだよ!
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