第14話 独立へ
人が増えれば問題も増える。
極当たり前のことだが、問題を解決しなければならない立場にいると愚痴一つも言いたくなるものだ。
「またケンカか」
開墾させてる人間たちが何度目かのケンカを起こした。
原因はコルモアの町で徴兵された者たちが帰りたいと、セオルたち先組に反抗してるのだ。
帰りたい気持ちはわかる。だが、そんなに帰りたいのなら徴兵されたときに反抗しろよと言いたい。こちらが殺さないからと甘くみているのだろう。
「セオル。従えない者は殺していいぞ」
理解させるなど無理なのだから排除するしかない。人間性は長い年月をかけて構築するもの。ラブ&ピースが罷り通るのは五百年先だろうよ。
「だが……」
「同胞を殺すのが気が引けるのならオレが森に捨ててくるぞ」
ギギの邪魔をするならオレは恨みでも受け入れるし、爪を血で濡らすことも厭わないさ。
「もう少し待って欲しい。ちゃんと言い聞かせるから」
「まあ、人間たちはセオルに任せたんだ、村の秩序を乱さない限り好きにやれ」
もう乱してるよ、とかは言わんでくれ。ケンカはガス抜きだ。ケンカもしなくなったら危険領域に入ったと見るべきだろうよ。
……はぁ~。他種族が一緒に暮らすと言うのは想像してたより面倒だぜ……。
「ゼル。ゼルム族は上手くやれてるか?」
オレの目からは問題ないように見えるが、細かいところまで見ているわけじゃない。隠れた問題はあるはずだ。
「今のところはな。だが、新しい人間に不満を持っている者は多い」
だろうな。あんな態度を取られたら……。
「不満なら出ていってもいいんだからな」
元々ギギのために湖の近くに越してきたのだ。あの頃の暮らしに戻ったところで不都合はない。
「不満はあるが、不満から逃げては発展はない。問題を解決する力が種の繁栄に繋がる。言ったのはレオガルド様だぞ」
あれ? そんなこと言ったっけか? いろいろ適当にしゃべっていたから忘れてたわ。
「ゼルム族のほうが繁栄しそうだな」
まだ人間より向上心があり生きるのに貪欲だ。ゼルム族を中心に発展させたほうがいいのかもしれんな。
「レオガルド様、どうにかならないのでしょうか?」
ギギも険悪な感じに心を痛めている。まあ、ギギが代表だからな。責任を感じているのだろう。
「ないこともないが、あまり人間側に贔屓したくないだけだ」
あちらを立てればこちらが立たず。上手くできないとわかっていてもやらないとならないこの矛盾。獣に生まれ変わっても苦しめられるとは思わなかったよ……。
「ゼルム族はギギ様を立てることをレオガルド様に誓う。ギギ様が願うならゼルム族は全力で支える」
ゼルも知恵を働かせるようになったよな。オレのウィークポイントを上手く突いてくる。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、なんて人馬に言われるとか、なんの冗談かと思うぜ。
「家族に手紙を出させろ。反応を見てから次を決める」
人間の識字率は高いようで、大抵の者は読み書きできて、手紙の文化もあるらしい。紙も少しではあるが、コルモアの町でも作られてるそうだ。
「反抗的なヤツに持たせて、調査にきたヤツらに持ってこさせろ」
細かいことはセオルに任せる。
反抗的な者二人に手紙(木の板だけど)を持たせ、ゼルム族に護衛でコルモアの町に返した。
秋になるくらいに調査にきたヤツらが村へと現れた。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな。やつれたか?」
ここまでくるのは楽じゃないが、それでもやつれ具合が激しい。それでよくここまでこれたものだ。
「え、ええ、まあ」
「軍人たちに支配されてるのか?」
俯いていた顔をバッと上げた。
「……な、なぜそれを……?」
「ここにきた軍人から話を聞けば想像もできるよ」
開拓は国の資本で計画されたものだと言っていた。なら、いいところで軍が指揮権を奪い取るくらい容易に想像がつくわ。
「今さらだが、お前ら、名前は?」
「ミドロアと言います。仲間のニドースー、ライド、モリセアです」
どいつも三十前後。今が旬な感じだな。
「お前らが望むならレオノールに受け入れてもいいぞ? もちろん、家族がいるなら一緒にな。その手助けも全面的にする」
「……おれらに裏切れと……?」
「どうとらえるかはミドロアたちに任せる。だが、軍人たちに仕切られてコルモアに先はあると思うか? 次、また軍人がこれば逆らうこともできなくなるぞ。いいように使われて土に還るだけだ」
軍船が二隻もあるなら帰ることも可能だ。町ができたとなれば次々とやってくる。そうなったら侵略は止まらない。数に負けて滅ぼさせられるだろう。ここでコルモアをこちらに引き込んでおかなければこちらに勝ち目はなくなるだろうよ。
「独立するなら早いほうがいいし、立場は早く築いていたほうが有利に働くぞ」
この誘いは人間のほうが利きやすい。損得勘定は人間の十八番だからな。
「独立?」
「レオノール国を建国して、ゼルム族と人間が暮らせる場所を創る。今なら建国始祖として名と名誉、なんなら貴族にでもなればいいさ」
まだ民主主義で国を治めることはできない。なら、王国制にして貴族を創るほうが治めやすいはずだ。
……民主主義になるまでオレは生きてないしな。先のことは知らんよ……。
「ただ、オレはギギのためにいる。ギギと敵対するならオレは許さない。それだけは忘れるな」
別にギギを王にするつもりはないが、ギギのための独立であり、建国である。そこが揺るがないのならどんな社会になろうとオレはどうでもいいさ。
「決断は早く。誠意を見せた者をオレは支持する」
どうする? と、ミドロアたちを見回した。
ゼルやセオルもオレの言葉を理解してか、ギギの背後についている。
「……ギギ様につきます……」
膝を折り、忠誠を示すかのように頭を下げた。
「ギギ」
「はい。皆さんをレオノール村に受け入れます。しっかり働いてください」
「はい。ギギ様のために働かせていただきます」
新たな仲間が加わり、独立に向けて動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます