どうもオレです 白虎っぽい獣に転生して守護聖獣となりました
タカハシあん
黎明期編
第1話 獣転生
どうもオレです。名前はまだありません。ってか、名前など不要な獣です。
オレが産まれたところは森の中。生存競争が激しいところだ。
なんの種族かはわからんが、母親は白い虎っぽい姿をしていた。
……アムールタイガーかな……?
とは思ったが、この森には四季があり、ハンターが活躍しそうなモンスターがいたからきっと異世界だろう。
……もしかしてオレ、狩られる立場……?
なんて心配した幼少期。母親の教育のお陰で狩る立場と育ちました。
「母上様、ありがとうございました」
朝起きたらいなくなっていた母上様に頭を下げた。
しゃべんのかい! なんて突っ込みは不要だぜ。母親も言葉を使ってたからな。きっと獣の言葉なんだろうよ。
「異世界で獣に転生か。これで人化できたら最高なんだがな」
人に成れる? って母上様に尋ねたら「なにそれ美味しいの?」と返されました。そのとき、母上様も転生したのかと疑ったよ。まあ、ただ天然なだけの母上様だったけど。
まあ、食物連鎖の上のほうにいるので、獣暮らしも悪くはない。食っちゃ寝ができるなんて最高だろう。
なんて思ったのも数年。頭の作りが人であったときと同じだからか、段々森での暮らしに飽きてきた。
なので、縄張りから出て森を探索しに出かけた──のだが、どこまでいっても森である。
この世界、森の惑星なの? 人、いないの?
さらに森をさ迷うが、会うのは凶悪なモンスターばかり。ハンターさん、お仕事してますか?
「しかしオレ、結構強いな」
いろんなモンスターが現れてケンカをふっかけてきたが、苦戦した相手は電気をバチバチさせたティラノサウルスかと思うモンスターくらいで、気の玉を撃ってくるゴリラや白いアナコンダに締めつけられても平気だった。
しかも、だ。オレ、風を操れたりした。
母上様も使っていたが、いずれ使えるようになると言うだけで、なんも教えてくれなかったのだ。
これはオレの勘だが、敵を殺すとレベルアップするか、食えば食うほど強くなるんだと思う。
まあ、生きるには便利だが、こんなモンスターが跋扈しているところで天下を取っても虚しいだけ。同種のメスをはべっても嬉しくともなんともねーよ。
「どこかに女の子でも捨てられてねーかなー?」
そしたら娘として育てるのにな~。
「いや、それは可哀想か。某山犬様も悩んでたしな」
そもそもこの世界に人間がいるのかもわからない。虚しい妄想は止めておこう。益々悲しくなるだけだ。
それでもさ迷うことは止めず、冬を四回ほど越えたとき、海に出た。
「……この海にもモンスターがいるのかね……?」
適当なところに巣を作り、海を眺める生活を送った。
また季節が巡る。
海を眺め、腹が減れば狩りをし、また海を眺める。
そんなことをしていたら人だった頃の記憶が薄れていき、人としての心もなくなっていった。
……このまま本能だけで生きる獣になってもいいかもな……。
そんなことをうつらうつら考えていたら、海に船が現れた。
船か~。木造船にしては大きいな~。どこからきたんだろうな~?
………………。
…………。
……。
「──船だと!?」
一瞬にして人だった記憶と心が復活した。
「いるじゃん! この世界に人いるじゃん! なんだよ畜生! 危うく獣になっちまうところだったじゃねーか!」
クソ! 希望なんて見せやがって! 船なんて見せられたら人を求めたくなるじゃねーかよ!
巣から飛び出し、船を追って海岸線を走った。
何日も何日も海岸線を走り、数日が過ぎた頃、町が見えた。
「町あるじゃん! 人いるじゃん! ほんと、なんなんだよ、こん畜生が!」
目から熱い汁が出る。鼻水が流れる。オレ、獣なのに、なに人間みたいなことできてんだよ。この体、いろいろ間違ってんだろう!
「いや、落ち着けオレ。感情を抑えろ。人間がいたからってオレがあの中に入れるわけじゃない。逆に追いやられる存在だろうが」
一旦、森へ戻り、なんか岩の皮膚を持つ亀にありったけの感情をぶつけて冷静さを取り戻した。
「亀よ、お前の命は無駄ではなかった」
狩ったら食べる。それが獣の礼儀。そして、食べたら木を噛って歯を磨く。人であった頃の知識である。
感情は静まり、腹も満ちたので、人間がいる町を崖から眺める。まずは情報収集である。
人間がいるところは小さな港で、船は二隻だけ停泊している。
「開拓団かな?」
兵士みたいのはおらず、粗末な服を着たものがほとんどであり、家族連れや年寄りまでいる。
武器を持つ者も何十人といるが、あまりよくない剣や槍ばかり。あんなんじゃゴブリン(っぽいからそう命名しました)を倒すのが精一杯じゃないか?
西洋人っぽい人間たちは、船を解体し始め、それで壁を作り始めた。
昼は壁を作り、夜は解体してない船で眠る。朝になったらまた壁を作るを何十日と続けた。
たまに森から現れるゴブリンを退治したりして、秋になる頃、野球場くらいの集落を築いた。
それで食料が尽きたのか、狩りに出かける者が増えた。
残る者は木を伐り、薪にして集落に運び込み、拓けたところを耕し始めた。
リアル開拓は見ていて飽きないものである。
春になり、耕した畑になにかを植え、少しずつ木々を伐り倒して生存域を広げていった。
開拓団を見つけて四年目、だろうか。人間たちがオレに気がついた。
この姿にビビったのか、何日か集落に籠ったが、こちらがなにもしないと理解したのか、恐る恐る出てき始めた。
オレを見張るためか、物見櫓なんか建てて二十四時間体制で見張っている。
狩りにいくときは騒がしくなり、鐘を鳴らして警戒しているが、集落にこないと理解するとまた木々を伐り始めた。
それからまた数年が過ぎ、集落を開拓した陸地へと移動し、石で壁を造り始めた。
生息域が広くなると暮らしも楽になり、子供も増えてくる。
海に出て漁を始める者までいて、漁村みたいなのができた。
毎日が飽きない。人間たちの発展と暮らしが一大叙情詩を見ているかのようだ。
そんな満足な日々を送っていると、十歳くらいの女の子がオレのところにやってきた。
「ど、どうぞ」
なんか籠を置いて走り去っていってしまった。
なんや? と籠の中を覗いたら鳥が入っていた。お裾分け、ってことか?
よくわからんがオレにくれるために持ってきたのだからありがたくいただいておく。ムシャムシャゴックンあー旨い。
それから女の子は毎日きて、鳥を置いていく。餌付けかな?
まあ、初めて近づいてきてくれたのだから餌付けでもなんでもいい。ありがたくいただいている。
女の子が一年ほど続けると、花瓶を持ってきて花を活け出した。
「……ありがとな……」
花を活けるだけじゃなく、周りを掃除し始めたので、思わず礼を言ってしまった。
オレの言葉が伝わったかのように体が跳ね、びっくり顔でこちらへと振り向いた。
「……な、なにかおっしゃいましたでしょうか……?」
ここにきてやっと女の子の声を聞いた。なかなか可愛い声じゃないか。あ、別にロリコンじゃないのであしからず。
「ありがとな。毎日肉を運んできてくれて」
通じるかどうかわからなかったが、肉を持ってきてくれたことを感謝した。
「こ、言葉を話せるので?」
ん? あれ? 通じてる?
あ、ちなみにオレは長い年月をかけて人間たちの言葉を覚えてました。
「オレの言葉がわかるのか?」
「……は、はい。わかります……」
「そうなのか。それならもっと早くに声をかければよかったな」
もったいないことしたぜ。
「お前、名前は?」
こうして言葉を交わせるようになったんだから名前を訊いておこう。
「ギギと申します」
「ギギか。いい名前だ」
まだオレにはコミュニケーション能力は残っている。お世辞くらいは言えるのだ。
「あ、ありがとうございます。あなた様はなんと申されるのでしょうか?」
「名前はない。ギギがつけてくれ」
自分で名づけるの、なんか恥ずかしいし、つけてもらうほうが無難だろう。
「わ、わたしでよろしいんですか!?」
「構わない。つけてくれ」
できればカッコいい名前をつけてくれ。
長いこと考えたギギは、枝を拾ってきてなにか文字っぽいものを書き出した。
「レオガルド、ではどうでしょうか? 神の獣と言う意味があるそうです」
「……レオガルド……」
うん。いいんじゃね? カッコいい名前だ。
「よし。これからオレはレオガルドだ」
なんだかやっとこの世界に生まれたって感じだぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます