二十一想 枝を生やす程度の能力
「師匠いますかー!」
やっと着いた。
ここが師匠の家。
この家も森衛所の家と同じように高い場所にある。
だから先に下から挨拶するんだけど、聞こえてるかな。
師匠の家イコール村長夫妻の家。
当然ほかの家よりも大きいし高い場所にある。
他の家は木や枝、師匠の奥さんが伸ばした枝かなんかに引っかけて建ててるけど。
この家は周りの木から根っこか幹かを三つ編みにするみたいに上へ伸ばして、
伸ばしたところに家が建ってるってかんじで。
人に説明するとしたら、一軒家を何本かの木が絡み合って持ち上げてる、
っていうのが一番疑問を持たれない説明だと思う。
本当は絡み合った木が土台なんだけど。
普通に登ることもできるんだけど。
疲れるから、家の入口までの梯子がある。
それでも20m以上の高さはあるけど。
上から落ちたらほとんどの生物は死ぬね。
死なない人間とか否人もいるけど。
この世界怖い。
さっきの声聞こえてなかったかな。
「ししょー!!」
・
・
・
あれ?
誰もいない?
「どうシたロヴィス、うるさイぞ」
近くにある木の枝にぶら下がってる。
片手ってすごいな。
…あの枝絶対生やしたやつでしょ、形がまっすぐすぎるし。
腰にランタンを付けてる。
それ以外は関節を邪魔しない薄い服を着てるだけ。
「ねぇロダー、師匠どこにいるか知らない?」
うわっ、片手で枝にスイングして乗った。
よくあんな動きができるなぁ。
そこ10mはあるんじゃない?
ランタン大丈夫かな。
「パパは森の中を見回ってルぞ」
じゃあ今日は会えないかもね。
ロウレストは相当広いし、師匠は適当に走ってそうだし。
「ならロダーについて行っていい?」
「エー、別にいいケど、面白いもんはなんもなイぞ。お前も知ってるものばっカだ」
木や虫の名前とか生態とかね。
「ちゃんと覚えてるか不安だからね」
復習って大事だよね、やっぱ。
忘れたらなかなか気づけないし。
「仕方なイな。ッと」
乗ってた枝にぶら下がった。
落ちたら即死…しないか、ロダーはそんなやわな子じゃない。
上手いこと受け身取ると思う。
体を揺らして…跳んだ!
跳んだ先の木には枝が生えてない、けど。
ロダーが木のそばに達した瞬間!
枝が生えた。ロダーはそれをつかんでまたぶら下がる。
相変わらず見ててハラハラしてくるけど、ロダーとしては準備運動程度らしい。
今は5mくらいの高さまで下がってて。
その位置からだったら普通に飛び降り…ああ、降りたね。
両足でスタッて。
ロダーにとっては5mもただの段差なんだろう。
「ふう、じゃあ行クぞ、ロヴィス」
「うん、入口行く?」
外に出るのなら知らせておいた方がよくない?
村長の娘なんだし。
「アあ、めんどくさいケど、いつの間に消えてる方が問題ダな。」
「だよね」
…あれ?師匠の奥さんはいなかったのかな。
奥さんの方は何してるんだろ。
「そういえばさ」
「アあ?」
「目ってどんな見え方してるの?」
割と遠くまで見えてそうだったから気になる。
「わたシか?」
「うん」
ランタンの光が照らす場所以上に見えてると思う。
ロダーのランタンは照らせる範囲が5mくらいまでしかないし。
「そうダな…暗いところでは全く見えなイな」
ランタンがなかったら一歩も進めないんじゃない?
「だけど少しでも光があればずっと遠くまで見エる。」
…もしかして猫みたいな目なのかな。
別に瞳孔が縦長になってるなんてこともないけど。
猫みたいにちょっとの光で広い範囲が見えるような目をしてるんだろう。
「便利そうだね、それ」
「自分だカら、便利とかわからなイぞ」
「それもそっか」
でも虫とかは絶対採りやすいよね。
「見えてきタな」
「ロダーには見えるんだろうけど、私にはわかんないよ」
言ってなかったけど森衛所の入り口には光源が設置されていない。
明かりがついていないのは入り口だけで、その近くの家には普通にランタンが設置してあるから、そんなに意味がなさそうに見えるけど、実は意味があったり。
あ、やっと私にも見える場所まで来た。
「さようなら!」
「行ってくルぞ」
声を張らないと多分届かない。
「こんにちは。ロダー、いってらっしゃい」
「オう!」
挨拶はちゃんとしないと拘束されるから気を付けよう。
ここで挨拶をするってことは入り口を知ってるってことだから通してもらえる。
なぜかというと森衛所の入り口には、必ず守衛さんがいる。
ランタンの光が届かないくらいの、20mくらいの高さでいつも見張ってて、
守衛さんに挨拶するかどうかで侵入者かどうかを見極めてるらしい。
でも、森衛所は別に柵で囲われたりしてるわけじゃないし、
そもそも侵入者なんてものが入ってくるほどこの世界の人口は多くないから、
ほとんど意味が無いものになってる。
いいことなんて挨拶が習慣づけられることくらいだし。
…これは本当にいいことかもしれない。
「ロヴィス、なんか見たいもんとかあルか?」
「うーん、食べられる木のところとかかな」
食材の一部を説明しておきたいな。
「じャあ、あっちダな、行クぞロヴィス」
急に走り出した。
転ぶことは絶対にないだろうな。
「走りすぎないでね。追いつけないから」
ロウレストに関しては地形とか木の種類とか少しだけ知ってるって。
まだロウレストの一部分しか調べられていないらしい。
だけどロダー以上にロウレスト内の知識を持っている生き物はいない。
まだ産まれて50年も経ってないのに。
確か虫とか木を育ててる場所もあるって言ってた、今まで行ったことないけど。
「安心シろ、もうすぐツく」
食べられる木、なんて大雑把な注文でも応えてくれる。
こんな入り組んだ森の中でよく覚えられるね。
「あ、ホントだ」
1分も走ってない気がする。
こんな近くにもあったんだ
「これダな」
ほかの木に張り付くようにして延びてる。
ツタにも見えるけどツタというには太い木。
確か名前は…
「なまエはファンアだ」
あ、先に言われた。
これ森衛所へ行く前に説明しそびれたやつだよ。
「特ちょウは…、あ、説明してもいイか?」
「うん、お願い、知らないこともあるかもしれないし」
ロダーなら前に聞いた時から新しく見つけたことがあってもおかしくない。
「わかッた、見た目からわかるんダがコイツは別の木に巻き付いて幹を延ばしテる」
「うん」
「コイツが巻き付いている理由ダが、一つは幹が人間の食事にできるほど軟らかいかラだ、これはロヴィスも知ってるはズだ」
うん、知ってる。
味は苦めだけど案外虫と合うから重宝してる。
「もう一つの理ゆウだ」
それは知らない、ほかに理由があるなんて初めて聞いた。
「コイツは巻き付いた木から溢れた養分を吸って成長するみたいダぞ」
「へー?」
「わたしの農園で確かめタが、コイツを生きていない木に巻き付かせてもすぐに枯れたンだ」
こんな暗いところの農園なんだから当たり前な気もするけどね。
「きっと光合成分の栄養を別の木から取っているんだロう。低い木だから空の光は届かナい。コイツなりの生きかタだ」
ロダーが木に対して、嬉しいとか、尊敬みたいな顔を向けてる
「木ってすごいんだね」
「アぁ、木は一本一本全然違う育ち方をしテる。いくら見ても飽きナい。それにコイツらとずっと生きてるンだ。これほど楽しいことはなイぞ」
すごく幸せそうだね。
それはとてもいいことだよ。
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