なりわいイコール人の敵

歩行

一章 お仕事紹介

一想 白鼠色企業

「ねぇ神様」


「何かな?」


「今日の仕事ってまだある?」


「仕事熱心だね、ありがとう」


 私そんな真面目に取り組んでないけど。


「で、まだあるの?」


「いや今日はもう何もないから明日までは休んでもいいよ」


 よし!


「じゃあすぐ帰るから」


「待って、今日の仕事代払ってないよ」


 あ、忘れてた。


「はよ」


「はよ、って僕仮にも神様なんだけどな」


 知らないよそんなこと。

 神様だろうが天使だろうがちゃんと払って。

 無条件が許されるのは信者に対してだけだよ。


「ほら、お金」


「はいはい、わかりましたよ」


 最初からそうしておけばいいものを。


「銀貨三枚、ちゃんと確認してよ」


「はいはい」


 少ないから手渡しなんだよね、だから確認するまでもない。


 今日の仕事だと、苦労に割が合わない気がするけど。

 だって日本円にしたら三○○○円だよ?

 銀貨一枚大体一○◯◯円くらいだし。


 バイトとかしたことなかったから相場がわかんないんだよね、

お金もらってる分何も言えないけどさ。

 わかんないから仕事は神様からしか受けてないよ、うん。


「そろそろ帰るね」


「えー、もうちょっと話さない?」


だ、神様は奥様方とでも話してればいいじゃん」


「三人とも暇つぶしに会話ができる状態じゃないからね」


 …あ、なるほど、うん。

 よっぽど元気なんだね。

 同じ家じゃなくてよかったと心底思うよ、

こっちのも聞こえたらやだし。


「帰るね」


 呆れるよ、ホント。


「待ってまだ帰らないで、ほらおじいちゃんと話そうよ」


 おじいちゃん?

 ああ。


「その見た目でおじいちゃんは無理あるよ」


 若々しいんだよ。

 それこそ二十代行ってるかどうか位の見た目だし。


「でも実際君のおじいちゃんだからさ」


 年齢詐欺にも程がある。

 俗に言うイケメンってやつでしょ、多分。


 肖像画に見せかけた写真を見せたら、だいたいの人がイケメンって言ってたし。


「百歳年上のおじいちゃんかぁ」


 見た目も実年齢もおじいちゃんとは思えない。

 面白いことに逆方向だけど。


「君こそ若作りが過ぎると思うけどね」


「二百歳代が何を言う、神様と比べたら子供だよ子供」


 見た目はともかく身体年齢はほんとに子供のはずなんだから。


「確かに二十歳からしたら十歳は子供だね」


「そーゆーことじゃないんだけどなー」


 ・

 ・

 ・


 何この静けさ、

話すことなくなった?

 じゃあ。


「帰っていい?」


「ダメ」


「なんで」


「さっき言ったよ」


「神様が暇を持て余すなよ」


「神様でも人間だから」


 どっちも元日本人だからそんなに違和感ないんだけど、

神秘性は薄れてるから。


「こーゆうのが暇を持て余した遊びを始めるんでしょ」


「あれは二人居ないと出来ないよ」


 よく知ってんね神様。

 元ネタなんて調べないと出てこないよ。


「やーい、ぼっちー」


「あれ?ブーメランだ」


 は?


「グハッ!」


 っつわぁ!



「本当にブーメランを飛ばす奴があるかぁ!」


 すごい自然に私の後ろから飛んできた、私が投げたわけでもないのに、

神様の力を無駄遣いしてる気がする。

 なんか心にも当たった気がするし。


「そんなのだから威厳がないんだよ」


「人々に寄り添う神だからね」


 確かに子孫には寄り添ってる。

 子孫って言うほど血が離れてない人もいるけど。


「もうちょっと何か教えてくれてもいいじゃん、神様なんだから」


「僕が知ってるのは生物の殺し方くらいだよ」


「物騒だね」


 この話は二百年くらい遡らないといけないから、なし。

 私は早めに帰りたい。

 私が生まれるより前の話だし。


 また今度聞く気があるときに聞こうかな。

 誰に語ってんだ私は。


「それに科学とかは教えるべきではないんだ」


 あ、会話進んだ。


「どうして?」


「世界は自分たちの手で作り上げないとからっぽになってしまうからね」


 ふーん神様もぽいこと言うじゃん。

 見た目人間そのものなのに。


「そして何より世界がどんな風に変わっていくか見てみたいんだ」


 これは神様っぽくない。

 むしろ俗っぽい。


「これは僕らのように寿命が長いから言えることだけど」


「まぁ、わからなくもないよ」


 確かに変化が見れるのは楽しみかな、


 けどさ。


「世界を安定させてるの主に私…というか【ライター】だからね?」


 世界かっこ人間関係かっことじをほとんど筋肉と武器で何とかしてる。


 疑似的にもう一人の自分を作らないとやってけない、

ちょっとイカれてるとは自分でも思うぐらいだけど。


 責任は全部神様が背負しょってるから文句は神様にどうぞ。

 いや、私と嫁さんぐらいしかこの仕事に文句言う人いないか、

私しかこの仕事してないから。


 後任欲しい。


「仕事だからね」


 ああそうか。


「仕事だったら仕方ないね」


 仕事ってそういうもんだしね。


「でしょ?」


「うん」


 あ。


「そろそろ30時じゃん」


「ああ、もうそんな時間か、僕の話に付き合ってくれてありがとう、また明日」


「うん、バイバイ」


 はぁ、やっと嫁さんの下に帰れる。

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