第68話
身の寒さに震えて目が覚めた。
身体が怠い、頭がずきすぎする、乾き過ぎた喉がひりひりと痛い。
自分が熱を出している。
そう気がつくまでに時間はかからなかった。
「いま…なんじ…」
体の節々に走る痛みに耐えながら起き上がり、時計を確認すると夕方になっていた。
眠る前は昼前だったのでかなり眠ってしまったらしい。お昼寝としては十分に眠ったはずなのに眠気を感じるのは熱のせいだろう。
「準備しないと…」
よろよろと立ち上がり、旅の準備に取りかかる。
夜が明ける前に出なければ父に捕まってしまう。
捕まれば最後アンサンセ王国へ連れて帰られる。
あの国に戻るのは絶対に嫌だ。碌に働かない頭の中をそればかりがぐるぐるしていた。
普段十分程度で終わる準備も三十分以上かけて行う。明日アーバンを出る事をレーヴさんに言いに行こうと部屋を出たところで視界がぐにゃりと歪んだ。
「まず…い…」
身体に力が入らない。
立っていられなくなり、壁にもたれ掛かりながら座り込む。
「エル?」
「ジェド…」
時機が良いのか悪いのか隣の部屋から出て来たジェドに見つかってしまう。焦ったように駆け寄って来る彼は私の前に座り込むと心配そうな表情を浮かべた。
「どうした?大丈夫か?」
「平気です…」
「顔色が悪い。平気そうには見えないぞ」
放っておいてくれたらいいのに。
伸ばされた手が頰に触れる直前、ジェドの後ろから大きな声が響いた。
「エル様!」
「ジゼル…」
座り込む私達を見つけたジゼルは表情を大きく歪めた。持っていた荷物をその場に捨て、駆け寄って来た彼女は私を庇うようにジェドと向き合う。
「エル様に何をしているのですか?」
ジェドをきつく睨み付けて低い声を漏らすジゼル。どうやら私が彼に何かされたと勘違いしているらしい。
ジェドは何も悪くない。むしろ父から助けてくれた恩人で、今も私を心配してくれているだけ。優しい人なのだ。
よろよろした動きで彼女の足首を掴むと「ジゼル、違うから」と弱々しい声を漏らした。
「エル様?」
「ジェドは私を心配してくれたの。何もされていないから」
言い終わると息が苦しくなって、身体が大きくふらついた。ジゼルの足元に寄り掛かるように倒れ込む。
「エル様!」
「エル!」
彼女とジェドの焦ったような声が響いた。
二人から名前を呼ばれている気がするけど耳が遠くなったみたいに上手く聞き取れない。
「俺が運ぶ」
ジェドの声が聞こえたかと思ったら身体が浮遊感に襲われる。
もう駄目だと思った瞬間に視界が真っ暗に染まった。
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