幕間18 ジェド視点
夕方になり、そろそろジゼルも帰って来る頃だろうと部屋を出ると隣からどさりと鈍い音が響いた。
そちらに視線を向けると壁にもたれ掛かりながら座り込むエルの姿があった。
「エル?」
一体どうしたのだろうかと首を傾げると「ジェド…」と力なく俺の名前を呼ぶエル。何かあったのかと慌てて駆け寄り、彼女の前に座り込む。
「どうした?大丈夫か?」
「平気です…」
「顔色が悪い。平気そうには見えないぞ」
明らかに大丈夫じゃない。
おそらく雨に降られたせいで具合を悪くさせたのだろう。どのくらい熱があるのかと確かめようと手を伸ばした瞬間、後ろから「エル様!」と大きな声が響いた。
振り向くと立っていたのは俺が会いに行こうとしていた人物。ジゼルだった。
「ジゼル…」
エルに名前を呼ばれたジゼルは表情を歪めて、こちらに駆け寄って来る。何を思ったのか俺とエルの間に立ったジゼルはこちらをきつく睨み付けた。
正しく大切な人を守ろうとしている表情だ。
「エル様に何をしているのですか?」
普段よりも低い声がこちらに降ってくる。
何もしていないが事情を知らない彼女から見れば俺がエルに何かをしたのだと思い込むのも無理はない。
どう説明しようかと思っているとエルがよろよろした動きでジゼルの足首を掴む。
「ジゼル、違うから」
「エル様?」
「ジェドは私を心配してくれたの。何もされていないから」
弱々しく告げるエルはそのままジゼルの足元に倒れ込んでしまう。
「エル様!」
「エル!」
ジゼルと同時にエルの名前を叫んだ。
息が荒く、顔色も先程より悪い。小さく縮こまる身体はガタガタと震えていた。
何度呼びかけてもエルからの反応は無い。
「俺が運ぶ」
床で寝かせておくわけにはいかない。
ジゼルから「私が運びますから」と言われるが無視をしてエルを彼女の部屋まで運び、ベッドに寝かしつけた。
「……エル様を運んでくださりありがとうございます。それから先程は酷い誤解をしてしまい申し訳ありません」
ゆっくりと頭を下げるジゼル。
その動きは皇城内で見た事があるくらい洗練された動作だった。
「エルは昼間、変な男に追われていた」
「変な男?」
ジゼルの目付きが鋭くなる。
説明しろと言わんばかりの視線を送られてきたので「部屋の外で話そう」と提案した。
ここに居てはエルを起こしてしまう可能性があるからだ。
「その前にエル様を着替えさせたいので退室してください。後ほどジェドさんのところに向かいますので」
「分かった」
短く返事をしてエルの部屋を後にした。
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