第61話

男性達は虫を回収して自分の家に帰って行った。

残されたのは私とジェド、ジゼルの三人のみ。このまま警備を続ける為、路地裏を歩いて回る。


「彼らを許して良いのですか」


甘くないですかと言ってきそうな視線を向けてくるジゼルに肩を竦める。

許して良いのか分からないが彼らには彼らの事情があったのだ。それに事件を起こさせるきっかけとなった警備隊に彼らを引き渡すのも気が引けた。


「ただの愉快犯だったら捕まえていたけど事情が事情だからね」

「相変わらず甘い人ですね」


やれやれと首を横に振られてしまう。

やっぱり甘いと思われていたみたいだ。しかしこればかりは仕方ない事である。


「今は彼らの事は置いておきましょう。問題は警備隊の方よ」


前にアグレアブル公国に訪れた時は警備隊がまともに機能していた。決して治安の悪い国とは感じなかったのだ。公爵令嬢として万全の警備下だったからそう感じたのかもしれないがそれでも今の公国は違和感がある。何かあったのだろうか。


「警備隊について調査しますか?」

「お願い出来る?」


ジゼルに言われて頷くと「二日ください」と返される。たった二日で調査が出来るのだろうかと疑問に思うがジゼルの事だ。情報を集めてくれるだろう。


「二日で調べられるのか?」

「情報収集は得意なので」


尋ねたジェドにこれ以上は聞くなと言いそうな眩しい笑顔を見せるジゼルに苦笑いが漏れた。

今のところは二人の距離が縮まる事はないのだろう。


「ジゼル、調査している間は警備は私がやるわ」

「え?私も…」

「あまり無理しないの」


ジゼルは仕事が出来る人間だし要領が良い。それでも普通の女の子なのだ。無理をすれば倒れる事だってある。

警備隊の調査に路地裏警備と同時にこなすのは大変だろう。無理をして倒れるような結果になって欲しくないのだ。

じっと見つめればジゼルは諦めたように「分かりました」と肩の力を抜いた。


「警備は私とエルが担当するから無理をするな」

「は?」


またジェドに喧嘩を売ろうとしているわ。

咎めるように「ジゼル」と名前を呼ぶと目を逸らされた。


「……分かりました。その代わりにジェドさんは夜の警備をお願いします」

「分かった」

「エルさんは昼間の警備ですよ」


別に夜の警備でも良いし、私が言い出した事なのだから夜も担当するのが道理だろう。

反論しようと思ったのにジェドからも「ジゼルの意見に賛成だ」と言われてしまった。


「エルは女の子なんだ、夜遅くに出かけるのは良くないだろう」

「そうですよ。ここは男性に任せるべきです」


さっきまで喧嘩腰になっていたのに今はジェドの味方になっているジゼルに苦笑する。

本来なら反論したいところだけど二人の性格からして折れてくれないのだろう。それに仕事の担当を分けた方がそれぞれの負担が減るはず。

ここは折れた方が良さそうだ。


「分かったわ。昼間の警備は私が、夜はジェドが、警備隊の調査はジゼルがするっ事にしましょう」


私の言葉に二人は満足気に頷いた。

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