第55話
「エル、ジゼルの様子おかしくないか?」
湯浴みを終えたジェドがやって来るなり敵意を向けるジゼル。昨日と様子が違うからかジェドは戸惑いながら私に質問を投げかけて来る。
「あっちが素みたいですよ」
どう庇ってもジゼルの敵意は消えたりしないので嘘をつく。ジェドは動揺した様子を見せながらも「そ、そうか」と納得してくれた。
「犯行時刻は夜中みたいですし、少し寝ますか?」
「その前にご飯にしよう」
「大変な役目をさせてしまいましたし奢りますよ」
「良いのか?」
「勿論です」
このままいったら私だけ役立たずで終わりそうだ。せめてご飯を奢るくらいはさせて貰いたい。
宿屋を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
先程の男性は今頃どうしているのだろうか。
虫を殺している?それとも警戒して大人しくしている?
どちらにせよ明日には牢屋送りだ。
「奢ってくれるのは良いけどお金は大丈夫なのか?」
「問題ありませんよ」
今のところ遊べるだけのお金は持っている。しかしいつ底をつくか分からない。
そういえばジェドは旅をしていたと言っていた。お金はどうやって工面していたのだろうか。
「ジェドってどうやってお金を稼いでいたのですか?」
「人助けをしたり、働いた事もあったな」
「ジゼルは?」
「色々です」
にこりと微笑むジゼル。何をしていたのか気になるが恐怖を感じるので深くは聞かない方が良いだろう。
前にグウェナエル様を助けた時には馬を貰ったし、パン屋のアンナおば様にはパンを貰った。メールでもご飯を奢って貰った事もある。
確かに人助けをすると自分に返ってくるものだ。勿論それ目的で助けるわけじゃないけど。
「働くのはありね」
アンサンセ王国で私が行っていた仕事は精々書類仕事くらいだ。しかし読み書きは出来るし、魔法も得意だ。働き口を探そうと思ったらすぐに見つかるはず。
ただ同じ場所で長くは働けないだろう。
「どこで働く気だ?」
「食堂の厨房ですかね」
料理担当だったら表に出る必要はない。見つかる可能性は格段に低くなるはず。
ジゼルを見ると「料理出来るのですか?」という目で見つめてくる。
追放される直前は誰もご飯を用意してくれなかった。自分で用意する他なかったのだ。幸いにもお菓子作りの経験があった為、料理も苦手ではなかった。
人様に食べさせられるかと聞かれたら分からないけど。
「料理出来るのか?」
「出来ますよ」
「それは意外だな」
どういう意味だと睨みたくなる。
料理が出来ない見た目をしているのだろうか?
「女性にそれは失礼ですよ、ジェドさん」
「す、すまない」
私の代わりにジェドを睨み付けたのはジゼルだった。
彼が居なかったら彼女から聞かれていたと思うけど。
「別に良いですよ」
他愛ない話をしながら酒場に向かった。
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