第40話
コゼットの母親探しから始めてから数時間。
夕方になり、流石に不安になってきたのかコゼットは泣きそうな顔をする。
「そろそろ警備隊のところに戻ってみますか?」
ジェドに尋ねると「そうだな」と短い返事がやって来る。警備隊の詰所に行こうとした瞬間だった。
「コゼット!」
後ろから若い女性の声が聞こえてくる。
コゼットの名を呼ぶ声に振り返るとそこには息を切らした若い女性と焦った表情をする若い男性が立っていた。
「お母さん!お父さん!」
コゼットの声にあの二人が両親だと知る。
見つかって良かった。
そう思っているとコゼットはジェドの腕から抜け出し、そして一目散に若い男女のところに走って行く。
「俺たちも行くか。事情を説明しよう」
「そうですね」
コゼットを抱き締める両親のところに行って事情を説明すると母親の方が顔を真っ青にする。
「ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください」
母親の方の話を聞くと父親に連絡を取って二人で探していたらしい。そこでようやく両親が揃っているわけを理解する事が出来た。
「あのぬいぐるみ…」
父親にぬいぐるみを自慢するコゼットを見た母親が小さく呟いた。
「コゼットが欲しがっていたので買いました」
「その、勝手な事をしてしまってすみません…」
ジェドの説明の後、怒られるかと思って慌てて謝ると母親は悲しそうに「いえ、謝るべきは私の方です」と呟いた。
「私達の家はお金に余裕がなくて…だから、いつもあの子に我慢をさせてしまって…。あのぬいぐるみもずっと欲しがっていたのになかなか買ってあげられなかったんです。駄目な親ですよね」
「……そんな事はありません」
「え?」
「居なくなった子供を心配して町を走り回って探していた貴女が駄目な親であるはずがありません」
魅了にかかり、娘に暴力を振るった挙句に家から追い出すような父親とは違う。
母親は悲しそうな表情を緩めていった。
「そうでしょうか?」
「はい。コゼットに慕われているのが何よりの証拠ですよ」
母親の様子が気になったのか心配そうに見上げるコゼットを見ながら言う。
折角いい親子関係を築けているのだからこのまま幸せな家庭であり続けて欲しい。
「ありがとうございます。あっ、でも、ぬいぐるみのお金はお支払いしますから」
「要りません。ただ一つだけお願いがあります」
「お願いですか?」
「せめてコゼットが自立するまでは寂しい思いをさせないでください」
母親と父親にお願いをしたジェドの横顔は少しだけ寂しそうなものだった。
「わ、分かりました」
「勿論そのつもりです。でも、それだけでぬいぐるみを貰うのは…」
「ぬいぐるみを買ったのはコゼットの笑った顔を見たかった俺の我儘です。気にしないでください」
ジェドが笑いかけると両親は納得したように「ありがとうございます」と頭を下げた。それを見ていたコゼットも同じようにぺこりとする。
「コゼット、もう迷子になっちゃ駄目よ」
「うん!」
「ぬいぐるみ、大事にしろよ」
「だいじする!」
コゼットにお別れをすると両親は軽く頭を下げて彼女の手を引いて歩き出す。仲良し親子の後ろ姿がいつまでも続いていた。
理想の家族図にちょっとだけ羨ましさを感じる。
「エル?」
ぼんやりと彼らを眺めていると隣から声をかけられた。そちらを振り向くと心配そうな表情を見せるジェドが「どうかした?」と聞いてくるので首を横に振る。
「そうか…」
そう呟いたジェドはもうすぐ姿が見えなくなりそうなコゼット達を見つめる。どこか羨ましそうな、寂しそうな表情をする彼に私は何も言えなかった。
「エル。良かったら一緒に夕飯を食べないか?」
こちらに振り向いたジェドに声をかけられる。
仲が良さそうな家族の姿を見たせいか心が寂しくなっていた私は素直に頷いた。
「良いですよ」
「断られるかと思ったのに」
「なんとなくですよ」
今は一人でいたい気分じゃなかったのだ。
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