第39話

「さぁ、頑張ってお母さんを見つけような」


クレープを食べて元気を取り戻したのかコゼットはジェドの言葉に「がんばる!」と意気込む。


「コゼット、他にお母さんと一緒に行ったところはないか?」


ジェドがコゼットに尋ねるが首を横に振られてしまう。という事は手掛かりは母の特徴と中央広場にいるかもしれないというものだけ。


「闇雲に探しても見つからないですよね。どうしましょうか?」

「子供が好みそうな店を回るのはどうだ?母親もそうしているかもしれないし」

「良いですね」

「じゃあ、早速おもちゃ屋を見て回ろう」


ジェドは当たり前のようにコゼットを抱き上げて肩車をしてあげる。朗らかに笑う彼の横顔はやっぱり見覚えがあるような気がした。

おもちゃ屋に到着するとコゼットは目を輝かせる。


「エル、俺が店員に話を聞いてくるからコゼットと待っていてくれ」

「お願いします」


店の奥に進むジェドからコゼットに視線を移すとクマのぬいぐるみを持って話しかけている姿があった。

そういえば、お母様にぬいぐるみを作ってもらった事があったわね。

魅了によって狂った父に捨てられてしまったけど。


「コゼット、それが欲しいの?」

「ほしい!でも、あまりわがままを言っちゃいけないの。お母さんを困らせちゃうから」


コゼットはしょんぼりしながらクマのぬいぐるみを抱き締めた。

母親が厳しい人なのか金銭的に余裕がない家なのか、どちらにせよ私が買ってあげるという選択をするのは間違っているような気がする。


「聞いてきたぞ、って浮かない顔をしてどうかしたのか?」

「ちょっと考え事をしてました。それより何か情報は得られましたか?」

「いや、この店には来ていないみたいだ」

「そうですか」


他のお店を見に行こうとするとジェドがコゼットからぬいぐるみを取り上げて、店員のところに持って行っていた。そして当たり前のようにぬいぐるみを購入して、コゼットに渡してあげるジェドに驚く。


「いいの?」

「今日だけ特別だぞ」

「ありがとう、ジェドお兄さん!」


よほど嬉しいのかコゼットはぬいぐるみを強く抱き締めて大はしゃぎ。微笑ましい光景だ。でも、買ってあげて本当に良かったのだろうか。


「ジェド、買ってあげて良かったのですか?」

「欲しがっていたからな」

「でも、他所様の子供ですよ?親御さんが怒ったら…」


クレープはお腹を満たす為と必要な買い物であったがぬいぐるみは違う。

怒られたらどうする気なのだろうか。


「その時はその時だ。俺は叱られても良い。ただコゼットが笑顔になってくれたらそれで良いんだ」

「コゼットが怒られる可能性もありますよ」

「必死に庇う」


こんな事を思うのは失礼な話だけどジェドは人との距離感がおかしい気がする。

優しい人であるのは分かりますが他人に対して世話を焼き過ぎでしょう。

本当に変な人だとコゼットと一緒になってぬいぐるみと遊ぶジェドを眺めた。



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