第28話
町の騒ぎに駆け付けた警備隊により、人混みは解散となった。
私も宿屋に戻り、今後の事を考える。
「あの騒ぎがあった後でジャコブは動くのかしら」
おそらく町の警備は厳重なものになるだろう。なってもらわないと困る。
多くの警備兵がいる中でジャコブが出歩く可能性は低くなるだろう。
それでも警戒は必要だ。
夕方になったら彼の乗っているという貨物船に行く事を決めて、宿屋を出る。
今朝と違って閑散のなった中央広場に一人立っていたのはガレオさんだった。
物悲しそうに見つめる先にあったのは彼のお店だ。その周りには立ち入り禁止の看板が建てられており、警備兵も立っている。
いくら店主といっても近寄らないのだろう。
「ガレオさん」
「ん?おお、エルか…。さっきは情けないところを見せたな」
「いえ、あれは仕方のない事だと思います」
「エルは全然動じてなかったみたいだけどな」
流石にあの光景は驚いたし、戸惑った。
魔物の死体を見慣れていなかったら私だって吐きそうになっていただろう。
首を横に振って「そんな事はありません」と否定する。
「そうか…」
「大丈夫ですか?」
「今は落ち着いたよ。それにしてもどうして犯人は俺の店を利用したんだろうな」
「人が多く集まる場所にあるお店だから、じゃないでしょうか」
「警備隊の奴らも同じ事を言っていたよ」
遠い目をするガレオさん。
自身のお店が犯罪に使われて悲しんで良いのか、怒って良いのか分からないのだろう。
「……俺は犯人を許せねーよ」
涙声で吐き出された言葉には確かな怒りを感じた。
「私も犯人を許せません」
だからこそ必ず制裁を加える。
これが自己満足である事は分かっているけど目の前で起こっている事件を放置する事は出来ないのだ。
ぎゅっと握り拳を作るとガレオさんは悲しそうにこちらを見つめてきた。
「エル、悪い事は言わない。さっさとこの町を離れろ。他の観光客だってそうしている」
そういえば慌ててメールを出て行く人達が居たような気がする。
こんな事が起きたのだから彼らの判断は正しい。私のように残って事件を解決しようとする方がおかしいのだ。
「そうですね。近いうちに離れる事にします」
犯人を捕まえて、この町に平穏が訪れたら離れますよ。
彼に心配をかけさせないようにその言葉は飲み込んだ。
「ああ、そうしろ」
ガレオさんは悲しそうに笑った。
「それでは失礼します」
「おう。また落ち着いたらメールに来いよ」
礼をして、その場を立ち去る。
向かったのは堂々と停泊する巨大な貨物船だった。
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