幕間⑥ シリル視点

最近同じ夢を見る。

エルとの思い出が走馬灯のように駆け巡る夢だ。

もしかすると彼女の身に何かあったという知らせなのかもしれない。


「エル、君はどこにいるんだ」


アンサンセ王国を出たエルが向かったのは隣国アグレアブル公国だったはず。

しかし国境を越えたところにあるポルトゥ村に捜索隊が訪ねてみると彼女らしき人は訪れていないと言われたと報告を貰った。

一番近い村に訪れていないとなると彼女はどこに行ったというのだ。

見つかる兆しがない事に苛立ちを覚える。


「シリル殿下」


城を歩いていると後ろから声をかけてきたのはエルの父親であるレジス・ド・オリヴィエ公爵だった。

私も酷い顔をしているが彼も負けていない。目の下には隈が出来ており、普段きっちりとしている身嗜みは乱れている。

それにしても彼が夜遅くに王城にやって来るとは珍しい事もあるものだ。


「エルについて何か分かったのですか?」


王城の捜索隊とは別にオリヴィエ公爵家からもエルの捜索隊を出しているらしい。

もしかすると何か掴んだのかもしれない。

淡い期待を抱きながら尋ねた。


「いいえ…。何も分かっておりません。そちらは?」

「こちらも同じです」

「そうですか…」


落ち込む公爵に私も深い溜め息を吐いた。

どうやら彼はこちらからの報告を聞きに来たらしい。


「エルがいなくなってから生きてる感じがしません…」


エルとよく似た髪色を持つ公爵を見つめて呟いた。

幼い頃からずっとそばにいるのが当たり前だったのだ。一生大切にすると誓った。

それなのにどうして私は彼女を裏切ったんだ。

何十回目の後悔を心の中で吐き出す。


「私も同じようなものです…」


小さな声で同意する公爵に「そうでしょうね」と返答した。彼の窶れた様子を見れば誰だって後悔していると分かるだろう。

私は握り拳を作って公爵を見据えた。


「公爵、エルはどこに行ったと思いますか?」

「分かりません…。父親なのに情けないでしょう」


自嘲する公爵に「シリル殿下は心当たりがありませんか?」と尋ねられた。

エルが行きそうな場所。

彼女との思い出を引っ張り出すとその中に一ヶ所だけ思い当たるところがあった。

魅了にかかる前、彼女に新婚旅行で行きたい場所を尋ねた事があるのだ。


『アグレアブル公国にある港町メールに行ってみたいです』

 

エルは照れ臭そうに笑って答えてくれた。

そんな彼女に私は何と返事をした?


『必ず行こう』

『楽しみにしておりますわ』


期待に胸を膨らませていたのかエルは嬉しそうに笑っていた。

もしかしてエルはメールにいるのか?

あそこはアグレアブル公国の港町だ。

エルがいる可能性は高いだろうし、行ってみる価値はある。


「シリル殿下?」

「公爵、申し訳ありません。用事を思い出したのでこれで失礼します」


彼からの問いかけにも答えず私は自室に戻った。

捜索隊を待っているだけじゃ駄目なんだ。


「エル、待っていてくれ」


その日、私は城を飛び出した。



一方その頃、エルは…。


「あなたも絶望した顔を晒し続けたら良いですよ」


殺人鬼を地獄に落としていたそうだ。

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