第12話

決意を固めたはずのグウェナエル様は苦い顔をする。


「エル、バティストは今どこにいるのでしょうか?」

「今は奥の寝室で眠らせています」

「そうですか」


立ち上がるグウェナエル様はおそらくバティストのところに向かうと言った。

私も立ち上がり一緒にバティスト達のところに行く。部屋に入ってすぐのところ床に転がったままの息子の姿を見たグウェナエル様は眉間に皺を寄せて、複雑そうな表情を見せた。


「愚か者め」


吐き捨てるように言った声はどこか悲しさや悔しさが滲み出ていた。

腐ってもバティストは彼の息子だ。

真っ当な道に導いてやれなかった事が悔しいのだろう。


「しばらくは起きません。どうしますか?」


声をかけるべきかそうじゃないか迷った末、声をかけるとグウェナエル様は首を横に振った。


「国に突き出す準備が出来るまでは逃げられないように拘束して地下の牢屋に閉じ込めます」

「お手伝いしましょうか?」

「いや、大丈夫です。そこまで手伝ってもらうわけにはいきませんから」


これ以上はダル子爵家に踏み込むべきじゃない。

大人しく引き下がる事にした。

グウェナエル様はバティストの側に座り込み、彼の顔をじっと見つめる。


「本当に馬鹿な息子だよ」


涙声が聞こえてくる。

邪魔をしてはいけないと音を立てないように部屋を出ようとするとグウェナエル様に呼び止められた。


「エル、今晩はここに泊まって行ってください」

「良いのですか?」

「勿論です。恩人を深夜に放り出す事は出来ません。それから村に滞在している間はここに泊まって行かれてはどうですか?」


ただの旅人である私が子爵家に寝泊まりは出来ない。

丁重に断らせてもらう事にする。


「今日一晩だけで十分です。後は適当に宿を取りますから」

「ですが…」

「お気遣いは嬉しいです。ですが貴族の屋敷に寝泊まりするのはちょっと気が引けてしまいます」

「……分かりました。その代わり宿屋代は私に出させてください」


宿屋に泊まるお金くらいは当然持っている。

そこまで気を遣ってくれなくても良いのに。


「エルは村の救世主です。これくらいの事はさせてください」

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」


無理に断ったところで彼の自尊心を傷つけてしまう恐れがある。

ここは素直に受け取っておくのが良いだろうと思ったのだ。

私の答えにグウェナエル様は笑ってくれた。


「明日、妻にも挨拶をしてくれませんか?きっとお礼を言いたがるので」

「では、夫人の体調に問題がなければ挨拶をさせてください」

「ええ。分かりました」


まだバティストの側にいると言うグウェナエル様を残して部屋を出た。

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