第13話
「本当にありがとうございます」
凛とした声を出して頭を下げてきたのはグウェナエル様の妻であるベアトリス夫人だった。
朝起きたらグウェナエル様から呼び出されて向かった部屋で待っていたのは彼と夫人の二人。軽く自己紹介を済ませた後でお礼を言われたのだ。
「頭を上げてください」
そう言うと夫人はゆっくりと頭を上げて私をじっと見据えた。
「私は自己満足で動いたのです。お礼を言われるような事はしておりません」
「いえ、そんな事はありませんわ。エル様のおかげで私達は救われたのですから」
それを言われたら返す言葉がなくなる。
ベアトリス夫人は優しく微笑み、小さな机越しに私の手を握った。
「本当にありがとうございます」
「どういたしまして、です…」
消え入りそうな声を出してお礼を受け取るとベアトリス夫人は嬉しそうに目を細めた。
手が離されるのと同時に声をかけてきたのは私を呼び出した張本人であるグウェナエル様だ。
「バティストに連れ攫われていた村の娘達は今日中に家に送り返してあげる予定です」
「そうなのですか」
「皆、心に深い傷を負っているようで。謝っても謝りきれないと思いでいっぱいですよ」
膝の上に乗せた手を強く握り締めるグウェナエル様の表情は酷く暗いものだった。
隣に座っていたベアトリス夫人も同様の表情をする。
「誰もお二人を責めないと思いますよ。お二人とも被害者なのですから」
「そうかもしれません。ですが、私達がもっとしっかりしていればと思わずにはいられません…」
「グウェナエル様…」
「こんな事を言われても困りますよね。申し訳ありません」
「いえ…」
もっとこうしていれば、と後悔するのは生きていれば一度はある事だろう。
だから彼の後悔する気持ちはよく分かる。
「ああ、そうだ。宿屋の手配は済ませていますよ!」
わざとらしく会話を変えるグウェナエル様。
無理やり作られた笑顔は気を遣っての事だろう。彼の気遣いを無駄にするわけにもいかないので私も笑顔を作って「ありがとうございます」とお礼を言った。
「では、私はそろそろ行きますね」
「もう行ってしまうのですか?」
立ち上がる私に声をかけたのはベアトリス夫人だった。
「はい。村を見て回りたいので」
バティストの無理な徴収によって閉店したお店は多いがそれでも残っているお店もある。
そこを見て回りたいのだ。
ベアトリス夫人は残念そうな表情を浮かべたが無理に引き止めてくる事はなかった。
泊めてもらったお礼を言ってからダル子爵家の屋敷を後にした。
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