イート・ゴッド・レクイエム

藤原埼玉

第1話

 その夜、丸の内の一角にある特別指令室は混乱を極めていた。


「B4ブラックアウト!」


「おい!モニターB4どうした!?」


「おそらく通信障害かと思われます!第一番隊付近のモニタリングに支障あり!至急原因を確認します!」


「クソッ…こんな時に電波障害…ジャミングか!」


「ジャミングチェック!痕跡見当たりません!」


「なんだと!?」


「ヒロマル隊長!そもそも付近には警察庁による高度なジャミングセキュリティが張り巡らされており、機械的機構及び集合的ネットワークを利用する兵器は一切使用が出来ない筈です!」


「何を馬鹿なことを!機械的機構を一切有しない兵士数名によって一個小隊が壊滅に瀕するとでも!?上にどう説明するつもりだ!そんな馬鹿げたことが万に一つでもあり得るとでも言うのか!?」


「敵影出ました!」


「何名だ!」


 木船田ヒロマルの苛立った声が空を切るように場はしんとした静寂に支配されていた。


「何名かと聞いている!早く答えろ!」


「……一人……です」


「……なんだと?」


 皆が驚きに息を呑んだその瞬間、一人の少女がカメラに大写しにされた。


 一筋の紅い涙が少女の頬を伝っていた。


 皇居千鳥ヶ淵。高層ビルの合間に虹の如く煌々と輝くLEDサインに照らされていた。 


 女の手には妖しく光る二刀。狂々と回る二振りの日本刀が血の艶やかな紅に染められていた。


 政府所属の神殺隊第五番隊隊長であり、随一のサイボーグ忍者である木船田ヒロマルは久方ぶりに戦慄を覚えた。


 ―時は20××年。


 今よりも10年も昔のこと。総理大臣、和田島総一郎曰く『日本に象徴としての神はもう不要である』。


 政府から天皇家に対する衝撃的な宣戦布告であった。


 その背景にあったのは経済格差の拡大及びそれに伴う暴動の激化。この時代における宗教とは貧困層に残された数少ない拠り所であると同時に、支配階級からしてみれば貧困層同士を結託させる危険な劇薬でもあった。


 日本からはありとあらゆる偶像及び宗教が排除され尽くしていき、そしてかの和田島総一郎の決定的な一言によって日本の勢力はほぼ半永久的に二分されることとなったのだ。


 元来目と鼻の先にある皇居と国会議事堂の間には巨大な防壁が建造され、反天皇派と天皇擁護派に分かれての抗争は激化の一途を辿っていた…。

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