神はチートを許さない。

今澤麦芽

第1話 ストレスとの戦い。



「はぁ……またか……」


 僕はため息を吐き、聞こえないように口のなかで呟く。


 目の前に居る魂を見ながら。そして、もう一度聞く事にする。

「で、もう一度聞くよ。キミの転生の望みはなにかな?」


 ゆらりと人形の魂が揺れ言葉を紡ぐ。

『剣と魔法のある、異世界転生をお願いします。あ、スキルに言語理解や、鑑定、もし無理なら膨大な魔力と全属性の適正をください』


 またかよっ! なんなの? マジでなんなの? あの世界でここに来る若者の魂の二割が『異世界転生』『異言語理解』『スキルくれくれ』『膨大な魔力』『超人的な力ないしは成長率』とか望むって!


 頭いてぇよ! そもそも異世界自体はあるよ? あるけども、剣、魔法、冒険が揃う世界で、そんなスキル持たせたら世界のバランス崩れて世界終わるんだけど!


 てか、なんでコイツら異世界に行きたいわけ? いや、良いんだよ? 行かせても。


 でもさ、異世界に転生させても記憶消えるからね? スキルとか持たせても気づかないまま人生終えたヤツどんだけ居ると思ってんの?


 そもそも、出生率がそれなりなのに、そんな世界でまともに大人になれると思ってるのか?


「異世界に転生というのは出来ますよ。ただ、言語理解、鑑定、全属性の適正、などなどは与えられない。当たり前の話だけどそんなのをぽんぽん渡す状況の世界なんてありませんのでご理解ください」


 舌打ちと毒舌を飲み込みなんとか告げる。まぁ、告げたあとの展開がまた酷いのだが…………。


『は? え? 神様ですよね? 望みを言えと言ったじゃないですか! え? マジなんなの? こっちは成人前に事故に巻き込まれて死んだのに、酷くない? 駄目神なの? 残念神なの?』


 うわー、テンプレ来たわぁ。担当が僕のような男神なら『駄目神』『残念神』、女神なら『駄女神』『ビッ●神』と、とにかくこのあたりが基本の文句。


 そして、大半のヤツは死因や死亡年齢が若いから、なんかサービスがあると思ってる。こっちに非がないのだから、それはつまり神による運命と決めつけてるヤツのことだ。


 いや、ねぇから。人間の一人一人に運命とか決めて、寿命設定とかしないから。めんどくさい。というか、あの世界のあの国の若者は大丈夫か?


 普段は神など居ない! とか、『この人、神!』とか同じ人種に言ってるくせに、いざ本物の神を前にして『崇めない』『讃えない』『謙遜しない』とか、本当に大丈夫か?


 心証を良くしようとか、そういうのは無いわけ?


 てか、普通に『剣と魔法の世界へ転生したい』と言われたら、まぁちょっとはサービスしたよ? てか、そりゃ不憫だもの歩道歩いてて事故で吹っ飛んできた車に跳ねられ、犬が小便してる電柱に頭をストライクさせて、ここへ来たんだから。


 ちょっとは『幸運』とか、『危険察知』とかつけてあげようと思うよ? ちゃんと礼儀を守ってたらね。


 なのに、駄目神? 残念神? あぁ、もういいや。


「じゃ、異世界に飛ばすね。あ、記憶失くなるから教えておくけど、その世界、成人になるまでに死ぬ率は四割だから。じゃ、よき旅を!」


『なっ! まっーーーーーーー』


 はい。待ちません。後ろつかえてんだよ。てか、ノルマ終わらないと帰れないんだよ!


「はい、次の方ーーーーー」



 こうして男神はもくもくと業務をこなすのであった。

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