理不尽な動機

@kaku412

第1話

僕は人一倍、理不尽に敏感だ。


まだ僕が小学校五年生の11才のとき、都市部の中では結構な有名校に通っていた。例年より涼しい夏のある日、身代金目当てで一度襲撃にあったことがある。運悪く僕のクラスの先生が人質にとられてしまった。その先生は人柄が良く生徒から人気の先生だった。僕は「こんなの警察が来てすぐ捕まるだろう」と思っていたら、犯人が先生の顔を見ると急に怒りだした。僕含め驚いていると犯人は僕達に向かって「こいつは今俺のことを見下すような目をした、俺の顔に泥を塗った!」理不尽ないちゃもんをつけた。すると犯行の目的を忘れたのか、先生の額に銃口を向けた。そして


「やめて…くれ……」

「うっせぇ!」


犯人がそう言った途端、とても大きな鈍い音がした。僕の幼い脳でもわかった。先生は撃たれたのだ。先生の額に数センチの穴が空いていた。犯人のうざったいほどの高笑い。先生の額から滴る血。

こんな理不尽な理由により先生が殺されたと思うと僕の中での怒りのメーターが振り切った。僕の中から新たな僕が出てくるよな感じがした。周りからは悲鳴が聞こえるが気にしなかった。


「〜〜〜♪(鼻歌)」


「あ、変わった」と僕でも理解できた。急に身体が軽くなった。勝手に身体が動く。僕は筆箱にあった鋏をとって犯人に向かって走り出していた。

「なんだ、お前は!?」犯人が驚いているが気にせず僕は腹に一回刺し、脚の筋を斬り最後に首筋を一撫でした。

その後の記憶はないが、ただ一つ、快感があったことは覚えてる。


今は市街地のアパートで一人暮らしをしている。あの事件から十年経ったがあのような変化は起きたことがない。


「今いる〜?」

「ちょっと待って〜」


ドアの外から声が聞こえた。彼女の声だ。彼女とは大学がきっかけでよく喋るようになった。そして3ヶ月前に付き合い始めた、しかしまだそれといった進展はない。交わったことも、キスもないがいつも趣味の話などでそれなりに楽しくしている。


「お邪魔しまーす!」

「待ってって言ったじゃん!」

「え…汚い…足の踏み場ないじゃん…」


彼女が驚きながら言って入ってきた。だから待って欲しかったのだ。僕は掃除が全くできない。だから月一に掃除業者を頼むぐらいだ。2人で掃除をしてソファーで休んでいると


「今日の髪どう?」

「もの凄くいいよ」

「ありがとう〜!」


いつも通りの彼女だ。彼女はショートが似合う、俗に言う「褒めてほしい系女子?」なのだ。いつも通り褒めてあげると急にかしこまって「週末、何処か出かける?」と聞いてきた。一瞬デートのお誘いかと思ったが、彼女の場合は、週末は何かよく分からないプライドがあって平日しかデートはしないからその考えはすぐに消えた。僕は新作ゲームの攻略をする予定だったから「家にいるよ」と答えた。


「本当……良かった…」


本当に嬉しそうに何故か僕に背を向けて胸を撫で下ろす彼女の姿があった。


「ピピピピ ピピピピッ」

「ん…?」

「やばい!寝過ごしてた…と思ったけど日曜か…」


今日は、色々と申請が必要だったことを思い出した。コートを着て外に出ようとすると数日前、彼女に「家にいるよ」と言ってしまったことが気がかりだったが、すぐ帰ってくる予定だったのでそのまま外に出た。

朝日がいい感じに寝ぼけた僕の顔を照らしてくれるが、風が少しでも吹くと身体の先という先が氷のように冷たくなってしまう。


午前10時市役所に着いた。受付に行くと本人確認やらなんならで申請がすぐ出来なかったので、近くにあったソファーで待っていることにした。


10分ぐらい経った頃だろうか、なんだか周りからざわめきが聞こえてきた。皆の視線を向くとなんだか黒ずくめの五人組が大荷物を持って市役所の中に入ってきた。何をするのだろうと思った瞬間、持っていた黒いバックの中から、拳銃、自動小銃、散弾銃を取り出してきた。皆のざわめきが大きくなり、軈て少しずつ悲鳴に変わってきた。そして、5人のうちの一人が天井に向けて一発の弾を撃ち込んだ。


「静かに伏せれば、命を奪わない」


拳銃の硝煙が漂う中その声を聞いたとき何故か僕はその声に聞き覚えがあると思った。その格好から性別は判らなかったが、女性のような柔らかさもあり、男性のような低音の声で、親近感があった。僕は兎に角、命を優先して伏せたとき、5人組のうちの2人が市役所内にいた60歳近くの女性に近寄りいきなり、拳銃の先端を女性の額に向けた。そして


「これからこいつを人質にする」

「不審な動きをしたら、額に撃ち込む」

「わかったな!」


黒ずくめの1人が言った瞬間、周りからは声が消え、吐息の微かな音も聞こえるぐらい静かになった。僕は兎に角、自分の命優先で考え、大人しくすることにした。


やっと少し気持ちも落ち着きをみせ、寒さが感じられるようになった。

黒ずくめの人が占拠してから約5分「あの、すみ…ませ…ん…ゴホッ」と僕から少し離れたところにいた人質の老人苦しそうに黒ずくめの一人のある奴に声をかけた。


「私、喘息持ちで…」

「だからなんだ」

「吸入薬がもう無くて、どうか薬局に行かせてくれません…か…」


老人が苦しそうに黒ずくめの一人に土下座をした。しかし黒ずくめの人は思いやりの欠片もなく


「咳が出るだけだろ、我慢しろ…」

「しかし…ゴホッ…」


老人が咳をした後に口から血反吐を吐いた。そのとき、人質の老人の近くにいた僕と歳があまり変わらなそうな男性が老人に吸入薬を「これを使ってください!」と言いながら渡した。すると黒ずくめの一人が急に拳銃を2丁出して、人質の人と薬をあげた人の額に拳銃を向けた。そして「勝手な行動をするな!」とまず、薬をあげた人の額に拳銃を押し付けた。すると、さっきまでの勇気が一瞬にして消えて怖気ついたのか、顔色が悪くなり声をあげながら逃げて行った。「待て! 動くな!」黒ずくめの一人が大声を出しながら拳銃を男性に向けた。そして「チッ クソ野郎…」と小声で言ったと同時に男性にむかって発泡した。


「痛いよ…助けて…」

「五月蝿い、喋るな」


男性が泣きながら出したSOSを踏み躙るように、家にいる虫を追い払うように発泡した。黒ずくめの一人が「これは予定外よ!」などと小声で言ったが「これは仕方のない事だ」の一点張りでめんどくさそうに言い返していた。

僕の中にある容器にどす黒い何かが溜まっていくのを感じた。多分それは『怒り』に似たものだと思った。僕は黒ずくめの殺したことに対しての軽い気持ちや呆れた態度に「何故だ」というこの一言しか出てこなかった。僕の集中を現実に戻したとき、黒ずくめは人質の老人に自動小銃を向けていた。僕が「やめろ!」と一言言おうとしたときには黒ずくめと男はトリガーを引いていた。


老人に向かって、マガジンの弾が無くなるまで撃っていた。僕は必死に止めるように言ったが聞く耳を持たずに笑っていた。撃ち終わるとそこは血が池のように溜まっていた。老人には無数の穴が空いていた。周囲の数人はこの現状に耐えられなくなって嘔吐する人や気を失う人が出た。


この無惨な現状に僕の中にある『怒りの容器』はさっきの男性のことでギリギリ表面張力で耐えていたがもう無理だった。僕はあの頃と同じく自分の中から新たな自分が出てくるような感じがした。


「〜〜〜♪(鼻歌)」


「あっ、来たな」と自分でわかった。また身体が軽くなり自分の視点が三人称になったのを感じた。身体の主導権が奪われた。僕は黒ずくめ達に向かって走り出した。すかさず、黒ずくめ達も発泡してくるが僕には擦りもしなかった。一人ずつ確実に首をへし折りあっという間に4人を倒して、残りの1人の首を触った瞬間手に液体がついた。そして生き残った黒ずくめの一人が


「君、こんなに凄かったんだ…」とか細い声を出した。僕の中で疑問だったことがようやく解決した。彼女に馬乗りをしながら僕は動けなかった。すると彼女が僕の頬を撫でて


「こんなことを黙っててごめんね、ほんとはここまでする予定はなかったんだよ…」

「まず、君がこの場にいた事が不幸だった…こんな姿を見られるなんて…」


僕は情報量が多すぎて、何も話せなかった。何を伝えればいいのかわからない。どんな言葉をかけてあげればいいのかもわからない。僕が情報を整理していると


「今日の運勢悪すぎ…」

「今までありがとう、バイバイ…」


彼女がそう言った途端、拳銃を取り出して自らの頭に当ててトリガーを引いた。プツリと何が切れた音がしたような感じがした。すると僕は可笑しくなった、何故か泣きもせず、喚きもせず、何故か笑っていた。


そして、僕は我を失った。

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