第15話
オレンジ色の光りに照らされた少女たち顔は、上気したうえに恍惚に染まっている。
それはなにも、焚火の暖かさだけではなかった。
「はふぅ、まさか冒険のキャンプでこんなにおいしいものが食べられるだなんて……」
「マジ、信じらんないんですけど……」
「ドンちゃんさんは、お料理もおできになるんですね……」
「かわいいうえに役にたつだなんて、卑怯ではないのか……」
「にんにん……」
もはや幸せの境地に達してしまったような少女たちを、オッサンは岩の上から見下ろす。
「戦いの前は、うまいものをたらくふ食うのが冒険者ってもんだ。
そうでなきゃ、死んでも死にきれんだろう?」
「うん……もうウチ、死んでもいいかも……」と艶っぽい声を漏らすキャルル。
「本当だったらこのあとはコーヒーを淹れてやるんだがな。今日は持ってきてないから我慢してくれ。
かわりに、いいところをに連れてってやろう」
「え……? まだなにかあるの……?」
「ああ、腹が落ち着いたら行くぞ」
「ええ、もうウチ、このまま寝ちゃいたい……」
少女たちはみなグッタリしていたが、オッサンに急かされて起き上がる。
おのおの松明を持って向かった先にはなんと、
……ほっこり。
と湯気のたちのぼる、温泉が……!
少女たちはいっきに元気になった。
「わあっ!? 温泉だぁ!」
「マジマジマジぃ!? 入ろう入ろう!」
「お、温泉なんて初めてです! ずっと憧れておりました!」
「うむ、今日一日の疲れを癒すのにピッタリだな!」
「にんにん」
色めきたつ少女たちに、オッサンは言う。
「この温泉は疲労回復はもちろんのこと、精神安定と成長促進、さらに判断力向上の効果がある。
明日の強敵との戦いにはピッタリだぞ。んじゃ、俺はキャンプに戻ってるから、ゆっくり浸かってくれ」
「え!? ドンちゃんは入らないの!?」
「当たり前だ」
すると、少女たちはなぜか岩の上のオッサンを拝むように手を合わせた。
「ね、ドンちゃんお願い! いっしょに入ろう!」
「ねー、いーじゃんドン! ウチ、ドンといっしょに温泉入りたい!」
「ドンちゃんさんは本当はお水が苦手ではないのですよね?
でしたらわたし、ドンちゃんさんをキレイキレイにしてさしあげたいです!」
スカイ、キャルル、セフォンはおねだりモード。
ガーベラはそっぽを向いていた。
「自分は毛玉などどうでもいいがな! しかし毛玉がどのように湯の上で浮くのかには興味がないこともない!」
バンビはオッサンに突きつけたひとさし指をクルクル回しながら、なにやらブツブツ言っていた。
「あなたは温泉に入りたくな~る。入りたくな~る。」
オッサンは困惑する。
「まさかここまで女子高生から混浴を熱望されるとは思わなかったよ」
「たぶんうちの学園の女子もみんなドンちゃんとお風呂に入りたがってると思うよ!
ねっ、お願い!」
「うーむ」
オッサンは腕組みしてしばらく考えたあと、うむ、と頷いた。
「よし、それじゃあ一緒に入ってやる、ただし、ちゃんとバスタオルはするんだぞ」
すると少女たちは「やったーっ!」と抱き合うほどに歓喜する。
ガーベラも一緒になって喜んでしまい「じ、自分は別に……」と気まずそうにしていた。
オッサンは昨晩、スカイの想いを受け止めたときに、すでに腹をくくっていた。
もうこうなったら正体がバレるまで、徹底的に付き合ってやろう、と。
たとえ着替えや入浴中にこの変身が解けてオッサンになったとしても、もう後悔はしない、と……!
それはオッサンの残りの人生を賭けるほどの一大決心。
しかし少女たちはそんな思いも知らず、目の前でいきなり脱ぎ始めていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
生まれたままの姿をバスタオルに包んだ少女たちは、ゆっくりと湯船に身を沈める。
そして、「はあぁ……」と思わず溜息を漏らす。
「きっ……気持ちぃぃ……!」
「お……温泉って初めて入ったけど……マジ、ヤバくない……!?」
「はい、身体じゅうの疲れが溶けていくようです……!」
「う、ううむ……これは、なかなかだな……!」
「にん……にん……」
オッサンはキャルルに抱っこされて温泉に入っていた。
そしてえもいわれぬ気持ちよさに、すっかり呆けてしまう。
――温泉って、こんなに気持ちいいものだったか……!?
もしかしこの身体になって、気持ち良さが倍増してるのかも……!?
これなら仲間たちがフヌケになってるのも、わかる気がするぜ……!
思わず視界に
初めて産湯に浸かった赤ちゃんのように、抱かれた腕にその身を任せてしまう。
全身が雲に包まれているかのようにふんわりとあたたかく、手のひらまでもがマシュマロになったかのよう。
しかしふと気付くと、オッサンを抱っこしていたキャルルの様子がおかしい。
「あっ、んっ、うっ」と途切れ途切れの吐息を漏らし、電気を流されてるみたいに肩をビクビク震わせている。
「ん……? どうしたんだ、キャルル……?」
「あ、いや、ドンの手が弱いトコに当たってビックリしただけだし」
「俺の、手……?」
ふと見やった両手は、キャルルのバスタオルごしの胸に思いっきりめり込んでいた。
「わあっ!? す、すまん! わざとじゃないんだ!」
「ふふっ、いいって。気持ちよくて思わずふみふみしちゃったんっしょ?
ウチ、猫飼ってたから知ってるんだ。子猫のときは母猫のおっぱいをこうやってふみふみするんだよね」
「いや、俺は猫ちゃうし!」
「そーぉ? そー言いながら手が動いてるし」
オッサンはまたしても無意識のうちにギャルの胸を揉み込んでいることに気付き、全身の毛を逆立ててしまった。
もちろんそんなうらやま状態を、他のメンバーが放っておくはずもない。
「あーっ、いーないーな! ドンちゃん、ボクもふみふみしてよ!」
「わたしもドンちゃんさんのふみふみを見ていたら、かわいすぎて思わず、きゅん、ってなっちゃいました!」
「ぐっ……! じ、自分も……! い、いや、ダメだ! それだけは……!」
「ふみふみしたくな~る、したくな~る」
「誰がするかっ!」
「あんっ。そう言いながらまたやってるし。うふふ、ふみふみしてるドンってば超かわいいんですけど」
「うにゃああああんっ!?」
それからオッサンは少女たちの間をたらい回しにされて『ふみふみ』させられる。
いくら心で拒んでも、温泉の気持ちよさにとろけてしまうと、無意識のうちにマシュマロに手が伸びてしまう。
しかしその流れはある少女のところで、パッタリと止まった。
その平らな胸を前に、オッサンはすっかり冷静さを取り戻す。
そしてつい本人の目の前で、本音を漏らしてしまっていた。
「これほどのまな板ならぜんぜんふみふみできねぇから、我を忘れることもないな」
「殺す」
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