中編
正午を過ぎたころ。
書類の整理を終えると、丁度4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。ケガ人も病人も来ず、ゆったりとした午前を終え、白木は背を伸ばす。
軽く息を吐き、ふと自分のカバンへ視線を移した。
「…今なら…」
手を伸ばしかけた時、ガラガラと扉が開かれた。
「先生~。お昼食べよ~!」
本日二人目の来客は、お弁当袋を片手に元気に入ってきた。長い黒髪がきれいに腰まで到達している女子生徒。
「いいけど、病人がいたら大きな声出しちゃだめよ?」
いなかったから今日は大丈夫だったけど、と付け加え、白木は自然な動作で手をひっこめた。そして机の上に広げていた資料をまとめて昼食用スペースを作る。
「久しぶりだね、お昼にここに来るの。何かあった?」
「何もないよ!3年生になってからは頑張れてるし!でも、今日はりっちゃんが休んじゃって、ちょっと寂しかったから。」
肩をすくめ、少し寂しそうに笑う彼女は、3年生だ。しかし、境遇の変化などから3年生になるまで心が学校に行くのを拒んでしまうことが多くあった。その際、保健医としてカウンセリングを行ったのが彼女との出会い。徐々に学校へ来れるようになった彼女は、朝と帰りに保健室へ挨拶に来て、話をする、というのがルーティンになっていた。
やがて同じ趣味を持つ同級生の友人ができ、そのルーティンは必要なくなっていたのだ。
「いつでもきていいからね。」
「ありがと、先生」
お弁当を食べながら、最近あったことなどを楽しそうに話す彼女。白木は話を聞きながら、心が温かくなった。
「それでね、りっちゃんが…」
話している途中に、予鈴がなった。
「え、もうそんな時間なの!?」
慌ててお弁当をしまおうとお弁当バッグを引き寄せた彼女が、あっと声を漏らす。
「忘れてた!先生!これあげるね!」
「あら、ありがとう。」
ハート形の手のひらサイズの箱をひょいと机の上に置く。
「お手製だから、たっぷり愛がこもってるよ~。」
得意げに笑いながら、彼女は急いで保健室を後にした。
元気な彼女の話を聞けたことに、白木はとてもうれしかった。彼女から元気をもらい、放課後へと闘志を燃やすのだった。
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