第54話 師と弟子、神明流vs神明流
「なにが敬老精神だよ。今のを技も使わずに軽く『気』をコントロールしただけで受けとめる相手に、そんなもん持つ必要はないだろうが」
サイガの規格外の強さに、リュージは呆れたように言った。
「いや老人は敬えよな? しかもオレはお前の師匠なんだぞ? 世の中、礼儀や礼節ってもんがだなぁ……」
「残念ながら、師匠から礼儀や礼節なんてもんを教えてもらった記憶は、これっぽっちもないんだよなぁ」
リュージにあるのは、例えば無人島で1カ月過ごせと言われて放置されて、必死に生き延びて。
なのに2か月経っても迎えにやってこず、このまま冬になったら間違いなく死ぬと思って自力でなんとか本土までの20キロを泳いで帰ったら、
『もうそんなに経ってたか? すまんすまん』
と酒瓶片手に尻をかきながら、ブッと屁をこいてあっけらかんと言われた――そんな記憶ばかりだった。
「まったくお前は本当に口が達者だなぁ、口じゃ勝てる気がしねえぜ。だいたい俺の口は、酒を飲むためについてんだからよ」
「完全にアル中の発言じゃねぇか……」
「ってことで、やっぱりオレは
今度はサイガが目にも止まらぬ連続技を放った。
「くっ、神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』!」
それをリュージは『気』の消費が大きい対軍奥義で迎え撃つ。
ギャン! ギン! ギャリン! ギンッ!
これでもかと激しく火花を散らして、何度も何度もぶつかり合う刀と刀。
本来、五ノ型『乱れカザハナ』は三ノ型『ツバメ返し』のほぼほぼ上位互換の技だ。
だからリュージは『気』の消費が大きい分だけ、優位に打ち勝てるはずだった。
しかし、
「ぐぅっ――! このっ!!」
猛烈な打ち合いの中、押し込まれ始めたのはリュージの方だった。
打ち合えば打ち合うほどに、リュージはじりじりと防戦一方に追い込まれていく。
キンッ! ギィン! ギャン、ギン、ギャン!!
「どうしたどうした? 達者なのは口だけか?」
「くっそ――っ!」
なぜ格下の技でこうも圧倒的に打ち勝てるのか?
それはサイガが『気』をコントロールする精度が、リュージのそれよりもはるかに高いからに他ならなかった。
使い手の『気』のコントロール精度が技の威力に直結するのが、神明流という剣術の最大の特徴なのだから。
「よしよし、いい感じに身体があったまってきたな。じゃあもうちょいペースを上げるぞ?」
ギンギンギン! ガンギン! ギャリンギン!!
サイガの攻撃が、さらに激しさとキレを増していく。
サイガにとって今までの斬り合いは、文字通りウォームアップに過ぎなかったのだ――!
「冗談だろこの化け物め!? ぐぅッ、速い――!?」
「なんだ、偉そうに持論を語ったってのにこうも手も足も出ないのか?」
サイガが小馬鹿にしたように笑いながら刀を振るう。
しかしリュージは苦しい状況に追い込まれながらも、そんなサイガの一瞬の隙をついてみせた。
「神明流・皆伝奥義・十ノ型『シシオドシ』!」
それは鮮烈なるカウンター一閃。
相手の攻撃の勢いを利用し最良のタイミングで放たれた一撃は、1+1を2ではなく相乗効果で3にも4にも飛躍的に膨れ上がらせる!
リュージは、サイガが連続斬りの中でほんのわずか大振りになった極小のワンチャンスを突いて、神明流の誇る逆転の
だがしかし、
「おっとと、危ねぇ危ねぇ。一瞬の隙をつく勝負勘はさすがだな、オレじゃなかったら今ので終わってたぞ? さすがオレが育てただけはあるな」
サイガはそれすらも──体勢をやや乱しながらではあるが──なんなく受け止めて見せたのだった。
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