第51話「真犯人はお前だったんだなアストレア」
「だからあくまで普通の情報収集の延長で、カイルロッド皇子についても入ってきた情報をチェックしてた程度なんです」
「つまり諜報がバレたからお誘いが来たわけじゃないってことか? じゃあどういうことなんだよ? 誰が何のためにやったんだ?」
「そんなことわたしに聞かれても……」
アストレアが困ったようにつぶやいた。
「つまりまとめると。少なくともシェアステラ王国がカイルロッド皇子を調べたいと思っていたことを見抜いたやつがいて。目的はわからないけど、そいつが情報を流したわけか」
「……なんですかねぇ?」
アストレアが曖昧な表情で首をかしげる。
「……そうか、そういうことか」
「はい?」
「つまりお誘いを受けたのは、シェアステラ王国じゃなくて俺のほうってわけか」
「リュージ様をですか? それこそなんのために?」
「さあなぁ。もしかしたら俺が姉さんとパウロ兄の仇をとって回っていることに気付いたやつがいて、俺をどうにかしたいと思ってるのかもな」
「さすがにそれはないんじゃないですか? だってわたし以外にリュージ様の復讐を知る人はいませんよ」
「ふむ……つまりお前仕掛けた罠だったのか。真犯人はお前だったんだなアストレア。仕方ない、殺すか」
「なんでそうなるんですか!? むしろわたしはあなたの一番の協力者だと思うんですけど!?」
「えっ?」
「いやあの『えっ』て……、ええっ!?」
「冗談だ。なにマジな顔してんだ、笑って流せよ」
「リュージ様が言うとちっとも冗談に聞こえないんですけど……」
ちょびっとだけ納得のいかないアストレアだった。
「ま、いずれにせよ降って湧いたチャンスだ。罠だろうが何だろうが、お誘いに乗らない選択肢はないな」
「わかりました。ではその前提で、これを見てください」
そう言うとアストレアは地図を開いた。
シェアステラ王国を中心に、西に広大な領土を持つ神聖ロマイナ帝国が、北にはフランシア王国が描かれた周辺地図だ。
「神聖ロマイナ帝国からフランシア王国に向かうにはこの道、北部の街道を通るんですけど――」
アストレアが、神聖ロマイナ帝国からフランシア王国へと続く一本の道を指でなぞってみせた。
「街道のこの地点、距離にして約3キロメートルの区間は、実はシェアステラ王国の領内を通過するんです」
「へぇ……」
リュージの瞳が細まり、アストレアが示したシェアステラ王国の北端をにらみつける。
「つまりこの地点は神聖ロマイナ帝国側の警備も、フランシア王国側の警備もどちらもが手を出しづらい空白地帯となるわけです」
「襲うにはもってこいってことか」
「そういうことです」
「逆に聞くが、シェアステラ王国の領内で事を起こして問題にはならないのか?」
「この件に関して我が国には事前通告はありません。あまり公にしたくないのでしょう。なのでリュージ様が単独行動する分には、我が国は知らぬ存ぜぬをつき通せばなんとでもなります」
「ならいい」
「お心遣い、ありがとうございますね」
「ま、散々お前に無茶ばかりさせてきた俺も、さすがに超大国の神聖ロマイナ帝国相手に正面切って戦争させるわけにはいかないからな」
この国にはどことなく姉と似たアストレアがいて、パウロ兄をほうふつとさせる青年リーダーもいる。
今のリュージには、失いたくないものができてしまっていた。
「ではより詳細がわかり次第、お伝えしますので」
そう言うとアストレアは会議に向かうために部屋を出ていった。
一人きりになった部屋で、リュージは両手首に巻いた赤と青のミサンガを見つめて、それに語り掛けるようにつぶやいた。
「姉さん、パウロ兄、待っていてね。もうすぐ全部、終わらせるから――」
最後の復讐が始まろうとしていた。
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