第39話 内乱勃発
「納得いってくれたみたいだな」
「ちなみにもし叔父上が挙兵しなければ、リュージ様はどうするつもりだったのですか?」
「実際しただろ? アストレア、お前の国政改革は守旧派貴族にとってどうしようもなく都合が悪い。一般の民衆を政治に参加させようとしているのがその最たる例だ」
「あれ? 意外と王宮のことに情報通なんですね? そのことをリュージ様に話したことってなかったはずですけど。誰から聞いたんですか?」
「今はそんなことはどうでもいいだろ」
「いつ来ても1人で寂しく筋トレか瞑想してるので、リュージ様はてっきり友達のいないガチボッチなのかと思ってたんですけど。意外とそうでもなかったんですね、評価を少し改めないと」
「しごく真っ当な交友関係だから、痛くもない腹を探るのはやめろ。お前に迷惑をかけるような関係じゃない」
まさかとは思うものの、万が一にも青年リーダーにあらぬ疑いがかけられないようにと、リュージはアストレアに釘を刺しておいた。
あの青年リーダーのことをリュージは割と気に入っている。
それはキラキラとした目で希望と未来を語るところや、理不尽に対して先頭に立って命を懸けて立ち向かおうとする姿が、どことなく亡きパウロをほうふつとさせるからかもしれなかった。
先日名前を教えなかったのも、自分と繋がりがあるということがマイナスにならないようにとのリュージなりの配慮である。
「もちろんリュージ様のことは信じていますよ、99%は。あ、残りの1%は、一国の女王として他人に100%を委ねることは許されない、わたしの立場的なものとお考え下さい」
「なんによせ、そんな守旧派の筆頭がセルバンテス大公だ。兄であるライザハット王の王位を簒奪し、好き放題に国を変えようとするアストレアから、王位を取り戻すという大義もある。ここで動かない選択肢はない」
「実に理にかなってますね。これも納得です。でもまさか最初から――それこそ最初の暴動の時にわたしを助けた時から、あなたはここまでのことを考えていたのですか?」
「ある程度はな」
「国を二分する戦争を起こすつもりだったのですか?」
「これはお前の国政改革が行われる以上、必ず通る道だ。俺はそれを少しだけ利用させてもらっただけに過ぎない。この事態を招いたのは100%お前の行為だ、勝手に俺のせいにするな」
「まったくですね、返す言葉がありません。はぁ……」
アストレアは大きな大きなため息をつくと、しかし気合を入れるようにぱちんと両手でほっぺをたたいた。
そしてこれまでとは打って変わった、凛々しい女王の顔になって言った。
「セバス、叔父上を迎え撃ちます。すぐに大臣たちと軍上層部の方々を集めてください。緊急の軍議を開きます」
「かしこまりました」
「それと王宮内の守旧派に目を光らせておいてください。少しでも呼応するような動きがあれば、即座に拘束することを許可します」
「心得ております」
「ついでに俺からも頼みごとだ。布陣する場所やら作戦やらなんやらの詳細が決まったら教えてくれ。悪いようにはしないから」
「アストレア様?」
「構いません、リュージ様には全てを詳細に説明してください。その上で自由な行動も認めるように」
「御意に」
こうして先王の弟であるセルバンテス大公の挙兵による、新生アストレア王国を二分する内乱の幕が上がった。
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